夜が深まるにつれて、風は強くなっていった。
雨は豪雨に変わり、もう決してやむことはないのではないかと思えるほど、激しく窓に吹きつけている。舞踏会の騒動はやっと収まりはじめたが、人々はかわりに、熱心に醜聞をささやき合いはじめていた。
「ノースウッド伯爵は頭がおかしいくなったんじゃないか」
誰かがそう言ったのを、否定するものは一人もいなかった。
噂話をするために集まった人々の群れは、バルコニーからずぶ濡れで屋敷に入ってきたエドモンドがなぎ倒したレモンの木の鉢植えの残骸を囲んで、神妙そうにうなずき合った。
大きな鉢は粉々に割れて、無惨に中の土を床にまき散らしている。木は割れ、根っこがむき出しになっていた。
しかし、犠牲になったのは鉢植えだけではなかった。
不幸にもエドモンドの行く手に偶然居合わせた人間はみな、彼のたくましい長身の邪魔になった。
エドモンドは彼らを鉢植え同様になぎ倒したうえ、振り返りもせずに大広間を突き進み、そのまま四段抜かしで階段を駆け上っていった。
さきほどの騒動で舞踏会は混乱していたとはいえ、エドモンドの所行は大勢の関心を引きつけた。
明らかに目を血走らせたエドモンドは、どれだけ控えめに言っても、獲物を追う飢えた肉食獣そのものだった。
彼が追う先に誰がいるのか知っているものは少なかったが、それでも、その「標的」はかなり恐ろしい目にあうだろうというのは、誰の目にも明らかだった。
大広間に灯るきらびやかなシャンデリアが、まるでこの先を予告するように、割れたポーセリンの鉢をきらりと鋭く輝かせていた。


