エドモンドは厩舎で馬の世話をしていた。
バレット邸には現在、八頭の馬がいる。そのうち二頭はまだ子馬で、二頭は年老いすぎており、実際に馬車や乗馬に使えるのは残りの四頭だけだ。
飼育係の少年が一人いるが、彼だけでは手の回らないことも多く、特に朝方、エドモンドは厩舎まで足を伸ばして世話をした。
水をやったり干草を補充したり、毛にブラシを掛けたり。
これが馬との信頼関係を築くのにも役立っていたから、エドモンドはこの毎朝の仕事を欠かさなかった。
馬たちもそんな主人を気に入っているらしい。毛を漉かれながら上機嫌に鼻を鳴らし、エドモンドに大きな身体をすり寄せる。エドモンドは馬のたてがみを撫でつけつつ、大人しくしていろと呟いた。
しかし、いつもは爽やかなこの朝の仕事も、今朝ばかりは悶々とするものだった。
ノースウッドの領地は北果ての荒地だ。
特に十一月頃から三月にかけては、誰も寄り付けない、外に出ることも出来ない、陸の孤島となる。
短い春と夏の季節になると、動けるものはそれこそ老人も子供も、伯爵本人さえも総出で、長く厳しい冬に備えて働く。
バレット家の歴史は長く、すでに五代以上に及び、この地の領主として栄えてきていた。
(いや──)
『栄えて』は、いない。
バレット家には呪いがあるのだ。この呪いがある限り、バレット家は栄えることも、子供たちの笑い声に溢れた賑やかな家庭になることもない。
だから。
だから、エドモンドはどうでもいい女を妻に迎えたかった。
それなのにあのオリヴィアのきたら──あれは一体何だ。
宝石のような水色の瞳に、天使のような顔。鈴の音を思わせる声。柔らかそうで豊かな胸は、これでもかとエドモンドを誘っているように見えた。
(駄目だ……私は彼女に触れない)
そう、バレットの『種』は、もう断ち切るべきなのだ……。
バレット邸には現在、八頭の馬がいる。そのうち二頭はまだ子馬で、二頭は年老いすぎており、実際に馬車や乗馬に使えるのは残りの四頭だけだ。
飼育係の少年が一人いるが、彼だけでは手の回らないことも多く、特に朝方、エドモンドは厩舎まで足を伸ばして世話をした。
水をやったり干草を補充したり、毛にブラシを掛けたり。
これが馬との信頼関係を築くのにも役立っていたから、エドモンドはこの毎朝の仕事を欠かさなかった。
馬たちもそんな主人を気に入っているらしい。毛を漉かれながら上機嫌に鼻を鳴らし、エドモンドに大きな身体をすり寄せる。エドモンドは馬のたてがみを撫でつけつつ、大人しくしていろと呟いた。
しかし、いつもは爽やかなこの朝の仕事も、今朝ばかりは悶々とするものだった。
ノースウッドの領地は北果ての荒地だ。
特に十一月頃から三月にかけては、誰も寄り付けない、外に出ることも出来ない、陸の孤島となる。
短い春と夏の季節になると、動けるものはそれこそ老人も子供も、伯爵本人さえも総出で、長く厳しい冬に備えて働く。
バレット家の歴史は長く、すでに五代以上に及び、この地の領主として栄えてきていた。
(いや──)
『栄えて』は、いない。
バレット家には呪いがあるのだ。この呪いがある限り、バレット家は栄えることも、子供たちの笑い声に溢れた賑やかな家庭になることもない。
だから。
だから、エドモンドはどうでもいい女を妻に迎えたかった。
それなのにあのオリヴィアのきたら──あれは一体何だ。
宝石のような水色の瞳に、天使のような顔。鈴の音を思わせる声。柔らかそうで豊かな胸は、これでもかとエドモンドを誘っているように見えた。
(駄目だ……私は彼女に触れない)
そう、バレットの『種』は、もう断ち切るべきなのだ……。


