エドモンドは、あらゆる嵐についての知識があるつもりだった。
にわか雨をともなう、じめじめとした重い嵐。暴風が吹き荒れて、大地を根こそぎにするような激しい嵐。一夜だけの嵐。
そして、数日続く長い嵐。
北の大地の領主として。
また、そこに生まれ育ち、そこに骨を埋めるつもりでいる一人の男として、エドモンドは幾つもの嵐を経験し、それに対する対処の仕方を学んでいた。
しかし、今、エドモンドの胸を荒らしている大嵐は、それらのうちのどれとも違う。
まるで地鳴りのような不気味なざわめきと、激しく打ちつける雨のまっただ中に立たされているような不快な気分がまとわりついてくる。
——悪い予感がしてならない。
舞踏室と大広間はひどい騒ぎになり、混乱して制御不能の状態だった。
この騒動に便乗して、刺激を求める若者たちが決闘騒ぎを起こし、あちこちで悲鳴が聞こえはじめてきているありさまだ。しかし、エドモンドの不安は、そんな舞踏会の騒ぎとは別のところにある。
オリヴィアを探さなくては。
あの可愛らしい伯爵夫人——そうだ、私の妻だ——が、こういった混乱を前にしてどんな行動に出るのか、エドモンドには想像もつかなかった。
ぼおっとしているうちに飛んできた銀の食器に頭をやられたり、この決闘騒ぎを室内ゲームと勘違いして笑顔をふりまき、男たちに不要な誤解を招かせたり。
しそうだ。
いかにも。
いざこざで乱れた礼服の前ごろ身を両手で直したエドモンドは、断崖から荒れる海に飛び込もうとするような覚悟に満ちた瞳をぎらつかせ、群がる人々をかき分けて前に進みだした。
今のエドモンドには覚悟があった。
目標が。
目指すべきゴールが。
こうなった彼を止められる者は少ない。
社交界でのノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿は、その冷静沈着さと毅然とした態度で知られているが、胸の内には本人さえ知らない熱い感情が眠っている。
彼は元来、激しい情熱を持った男だった。
ただ、北方の男の典型として、滅多にそれを表に出さないだけだ。今、それが目覚めようとしている。


