Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜


 心を引き締めるようにして、オリヴィアは再び周囲に視線を戻した。

 あらためて耳を澄ますと、どうしてだか急に、屋敷全体が騒がしくなってきている気がする。
 あちこちから何かが割れるような威勢のいい音が響いてきて、時々、誰かが甲高い叫びを上げていた。騒ぎの元は舞踏室のようだ。

 何かといぶかしがってオリヴィアがさらに耳を澄ますと、「決闘だ!」という叫びが聞き取れた。

(新しい室内ゲームなのかしら……?)

 新しい流行のものでも、昔からある古いものでも、オリヴィアは舞踏会の余興として行なわれる室内ゲームが大の苦手だった。
 若者が大勢でグループを作って、男女が交じり合い、この時ばかりと無礼講になる。
 少しばかり軽率な行動も、ゲームの名の下に許されるのだ。

 とりあえず、ピートがその中に混じっている図は考えられなかった。
 ──あの老執事を捜さなくては。

 ピートは、エドモンドの心を変えられる何かを知っているかもしれないのだ。誰も知らない秘密を、彼は握っている。
 そして何よりも……彼はエドモンドの祖父なのだから。



 オリヴィアがふと目を上げると、次の間に広い階段があって、上階へと繋がっているのが見えた。よく磨かれた大理石が段にはめ込まれて輝いている。
 なぜか急に、理論的な説明のできないなにかがオリヴィアの中にきらめいた。
 それは俗に、「勘」とか、「ひらめき」とかいうものだろう。

 あの老執事はあの年齢にも関わらず、一人で矍鑠(かくしゃく)と階段を昇ることができるのだ。バレット家の男たちは本当に強靭にできているらしい。

 オリヴィアは、華麗に広がったスカートの裾を両手ですくうようにして、その階段に向かった。

 どこだって、探してみる価値はある。
 この愛のためなら。

 白猫は、オリヴィアが残していった甘い香りにヒゲをひくつかせながら、階段を昇っていく彼女をじっと見つめていた。
 もう一度の「ニャー」がその後に続く。

 それはまるで悪戯好きの冥界の門番の、いささか遅すぎる警告のように響いた。