オリヴィアは興奮した自分をなだめるために、あらためて辺りを見回してみた。
豪奢に着飾った人々が、ふるまわれる美酒や音楽に酔っているすぐ側で、白黒のお仕着せを着た使用人達が忙しそうに盆を持って駆け回っている。
豪華な、しかしありふれたファレル邸は、どこかオリヴィアの生家を思い起こさせた。
キラキラと光るシャンデリアは眩しいくらいだし、壁だけでなく天井にまで飾り絵が描かれていて、住人を飽きさせない工夫がされている。
高価な調度や家具が所狭しと並び、それぞれの美を競っているが、どうも雑然とした感が拭えない。マントルピースの上には大陸製のきらびやかな壷が二組。
そして、よくできた白猫の置物がひとつ、その間に鎮座していた。
その白猫は、貴族たちに負けず劣らずの優雅なたたずまいで、大きな銀色の瞳を輝かせながらオリヴィアの方を見ている。
毛が長くて、猫にしては背筋がピンとしているので、まるで小さな獅子のようだった。
「とっても可愛いネコさんね」
と、オリヴィアは力なく微笑んでみた。
こんな時は、物言わぬ置物に慰めを見いだしてみるのも悪くないはず……。
そう思ってオリヴィアは猫の頭に手を乗せてみた。すると、
「ニャオ」
と答えがあった。
最初、オリヴィアは疲れからくる幻聴かと思って、大きな瞳を大袈裟に瞬いてみた。白猫はほぼ微動だにしない。
でも、なんだろう、この柔らかい毛は。温かくて、まるで本物だ。
「ニャー」
猫は再び鳴いた。
「まあ」
耳に届いたオリヴィアの手を煙たがるように、白猫はのっそりと尻尾を振りだした。「ニャー」ともう一度鳴くと、銀色の瞳を細めて、いかにも鬱陶しそうにオリヴィアをねめつける。
オリヴィアは伸ばしていた手を引っこめた。
「あなた、本物のネコだったのね。あんまり綺麗だから分からなかったわ、ごめんなさい」
すると、謝られたのに気を良くしたのか、白猫は満足そうにヒゲをひくつかせて、オリヴィアに向かってあごをしゃくってみせた。
その態度は、いかにも自分の方が位が上だといわんばかりで、さあ、お前に私を触れる名誉をくれてやろうと家臣に言い渡す国王のようだ。
まあ、国王がそんなことを言うところを見たわけではないけれど、きっとこんな感じなのだろう。
「みんなして人を何だと思っているのかしら」
わずかに唇をとがらせながら、オリヴィアは白猫に向かって愚痴をこぼしてみせた。「私を甘く見てはだめよ、優雅な猫さん。鶏の大群と戦ったこともあるんだから」
──負けてしまったけれど、という戦果については口に出さなかった。


