「お兄さまがあの小娘を誘惑している間に、私がノースウッド伯爵とお近づきになる。素晴らしい計画じゃなくて? それを今さら変える必要なんてないでしょう? 今となっては、お兄さまにはあの小娘にもっと痛い目を見せてやってほしいくらいよ」
「それは……まあ、そうだろう」
ヒューバートはあやふやな返事をしたが、心中はガブリエラの言い分に傾いていた。
そうだ、そうだ、エドモンドには傷ついてもらわないといけない。
そのためにあの可愛らしい娘が犠牲になるなら、それはそれで仕方ないのだ。
たしかに、踊るとき握った彼女の手は、すべすべと滑らかで心地よく、もぎたての桃のように瑞々しかった。
ヒューバートは、恋や愛がなんたるもので、どんな感情を指すのか知らない男だったが、それでもオリヴィアの瞳をのぞいていると、その中に答えがあるような気がした。
しかし。
兄の表情が変わっていくのを見て、ガブリエラはやっと満足そうに口元に笑みを浮かべた。
「さあ、舞踏会はまだ、始まったばかりではなくて?」
エスコートを促すように兄に手を伸ばしながら、ガブリエラは一歩前へ進み出た。
良くも悪くも、ガブリエラは不屈の精神を持っている。
本当に領主に相応しいのは、もしかしたら自分よりガブリエラの方なのかもしれない……と、ヒューバートは時々考えるくらいだ。
ただ、彼女は女性なので、そのありあまる情熱や闘志をつまらない男へ向けるしかない。
なんたる悲劇。
特に、その情熱を向けられる不運な男にとっては。
ただ都合のいい事に、ヒューバートはその男に同情する必要がない。
なぜなら、エドモンド・バレット卿ノースウッド伯爵は、ヒューバートの長年の宿敵であるのだから。


