しまった、という顔をヒューバートがした時には、もう遅かった。
ガブリエラの堪忍袋の緒はぷちりと切れて、彼女のそばにあったポーセリン製の花瓶が、乱暴に床に落とされて派手な音を立てた。
「その、お兄さまがのぼせていらっしゃる『彼女』は、ノースウッド伯爵の妻なのよ! ずっと願ってやまなかったことを簡単に忘れないでくださいな!」
ガブリエラの瞳が、まるで蛇のように残忍に細められる。
「ノースウッド伯爵のものを奪うこと。彼に打ち勝つこと。そのために、あの小娘は願ってもない道具なんじゃなくて?」
するとヒューバートは、なにかを思い出したようだった。
そうだ、エドモンド・バレット卿ノースウッド伯爵。ヒューバートの宿敵。
「お兄さまの欲しい物はなにかしら」
と、ガブリエラは兄にすり寄り始めた。
なんだかんだと言っても、ガブリエラはそれなりに美しいし、妖艶な声を出せば大抵の男は心を揺れ動かされる。
近寄ってくるガブリエラを見下ろしながら、ヒューバートは、オリヴィアの可愛らしい水色の瞳が脳裏にちらつくのを横に押しやった。
そうすることで、憎たらしいエドモンドへの長年の嫉妬を思い出し、さらには、今夜にでも現実になるはずだった夢を思い出すように努めた。
エドモンドのものを、自分のものに。
奴が大切にしているものを、滅茶苦茶に傷つけてしまおうじゃないか──。


