舞踏室のやかましい喧騒が壁一枚を通してわずかに聞こえてくる書斎で、気の立ったガブリエラはせわしく右へ左へと歩き回っていた。

「こんなことは許されないわ、こんなことは許されないのよ……」

 苛立たしげに爪を噛んでいたガブリエラは、ついにはキイッと声を上げて、扉をふさぐように立っている兄・ヒューバートに素早く向き直った。
 この書斎には、二人のほかは誰も入れないことになっている。

 つまり誰にも遠慮することなく言いたいことが言える環境で、特にガブリエラのような気の荒い女には、ここは気晴らしをするのに便利な個室となった。
 しかし今夜ばかりは、ただ気晴らしをするために悪口を言ってみたり、意地悪を画策するためだけでは終わりそうもない。

 ガブリエラのプライドはひどく傷つけられたし、主催者であるヒューバートの名誉もあやふやなものになっている。

 おまけに、なにがあったのかは分からないが、舞踏室から床をひっくり返したような大騒ぎが聞こえてくるではないか。
 これもファレル兄妹にとって、あまり歓迎すべきことでないのは明らかだった。

 ガブリエラが憤慨するのも無理はない。

 そして、ガブリエラが憤慨したとき、その怒りをぶつけられた相手はかならず痛い目を見るのだった。


「このままただではおけないわ。お兄さま、私に協力してくれるでしょう?」