「あーあ……」
と、ローナンだけが小さく呟いたが、それを聞いている者は少なかった。
舞踏会はすでに熱く熟しており、人々の血にはたっぷりとアルコールが混じっている。
いくら紳士淑女の皮をかぶっている上流階級の人間たちも、こうなると少しばかり勝手が違ってきて、ほんの一掴みの火付け粉だけで簡単に燃え上がることができるのだった。
「なんと!」
突然、エドモンドたちの周りに出来た人垣の奥から、派手に着飾った太った背の低い老紳士が声を上げた。「私だって若い頃はこのくらい暴れたものじゃて!」
老紳士の頬はいっそ見事なほど赤く染まっていて、自分の年齢も思い出せないほど酔っ払っているのは間違いなかった。
周りの誰かが止めようとするのも聞かず、老紳士は手に持っていた銀飾り付きのステッキをぶんぶんと振り回し始め、それはそのまま隣にいた別の紳士の背中を直撃した。
バチンと小気味のよい音がして、背中を突かれた紳士は手にしていた飲み物を落とした。
それを合図にしたように、また別の方向から似たような騒動が始まって、それが波のように舞踏室に広がっていく。
ついさっきまで優雅なカドリールで盛り上がっていた会場は、ものの数分もしないうちに野蛮な闘技場のようなありさまになり、ついにはあちらこちらで血が流れるほどの騒ぎとなっていった。


