火打ち石を叩いたときのように、二人の男たちの間で小さな火花が散り、こげた匂いが立ちのぼるようだった。
ローナンは頭の片隅で、どちらの方に分があるだろう、と考えていた。
──冷静にものを考えることのできる人間と、腹を空かせて頭に血の上った野獣と。
もちろん兄が後者だ。
エドモンドは獲物の小鹿が逃げたのを見逃さなかった。
彼女がローナンの助けを借りて器用に舞踏室を抜けていくのを見て、エドモンドは急速に歩幅を広げてこちらへ近づいてくる。
自分を含めたバレット兄弟の長い足をもってすれば、オリヴィアのような小柄な女性がドレスで逃げるのに、追いつけないはずはない。
しかし、兄とほとんど身長の変わらないローナンにしても、突進してくるエドモンドを止めるのは容易ではなかった。
なんせ、エドモンドの目は血走っている。
「兄さん、待ってよ」
と、ローナンは身を挺してエドモンドの前に立ちふさがった。
二人の身体がぶつかると、その拍子にローナンはわずかに後ろによろめいて、そばでカクテルをすすっていた老人をもう少しでなぎ倒してしまうところだった。
しかしエドモンドはオリヴィアから目を離すことができないようで、礼服に桃色の染みを作ってしまった老人がなにやらぶつぶつと文句を言うのを、完全に無視している。
ローナンは兄の前に立って、両手を胸の前に押し出して彼を止めた。
「義姉上は自由を求めて飛び立ってしまったんだ。兄さんがあんまり頑固に彼女を受け入れようとしないからさ……さすがに愛想をつかしたんじゃないかな」
「いいから、ここをどくんだ」
「そういう訳にはいかないんだよ、ノースウッド伯爵」


