焦っていたオリヴィアに比べ、ローナンは到着したときと変わらない整った姿で、片手には飲み物のグラスを持っている。
オリヴィアは足を止め、面白おかしそうな笑いを口元に浮かべている義弟に向かって、声を抑えて言った。
「ローナン、どこにいたの? 大変なことがあったのよ」
「そうみたいだけどね。でも、僕の出る幕なんてこれっぽっちもないように見えたからさ、舞踏室の奥に隠れてたんだ」
「じゃあ、あなたも全部見ていたの?」
何を、とはオリヴィアは言わなかった。
もちろん言う必要もなかったようだ。ローナンは肩をすくめてみせ、何を言わせるんだといわんばかりに眉を上げて、オリヴィアの耳元にささやく。
「それはもう……口にするのもはばかれるくらい情熱的な口付けだったね。兄さんは落ちたと思っていいのかな? それともまだ難しいことを言ってるの?」
「ええ」
オリヴィアは諦めたように答えた。「あなたのお兄さんは時々とても分からず屋よ。私はこれからピートと話をしてくるつもりです」
「ピート? 兄さんの代わりにするには少し歳を取りすぎてるんじゃないの?」
わざとからかうように言って、ローナンは手にしていた飲み物のグラスを近くにいた給仕係に手渡した。
そしてうやうやしくオリヴィアの片手を取ると、無骨な兄よりはずっと滑らかな仕草で、舞踏室の中央へ戻るようにうながす。
「でもその前に、たった一曲で構いませんから、マダム、この寂しい若者とも踊っていただけませんか?」
役者な彼は、本当に寂しくて可哀想な表情を顔に浮かべていたので、オリヴィアは思わず声をもらしてクスクスと笑いながらそのリードに従った。
一曲くらいなら仕方がない。
それに、この義弟からは時々とても為になる助言をもらっている。
「じゃあ、一曲だけならよろしくってよ。わたくし、とっても忙しいの」
たとえばガブリエラのような女性がするみたいに、気取った喋り方を真似してオリヴィアは答えた。
「ああ、なんたるご慈悲。光栄のあまり、喜びで膝が震えてしまいそうだ」


