──ああ、泣くな。泣かないでくれ。
エドモンドは祈った。
それは、まったく無駄な祈りであるように思えたが、驚いたことにオリヴィアはしばらく耐えた。そして彼女は、おもむろに唇をきゅっと引き締めると、突然、威勢良く胸を張った。
「……分かりました」
と、オリヴィアはハスキーな声で短く答えた。
「何だって?」
エドモンドは聞き返してしまった。
予想外の答えに、胃の中のものが急激に逆流してくるような嫌な反感を感じて、エドモンドは激しく眉間に皺を寄せる。
分かりました?
分かりました、だと?
この娘が正しく理解していることといったら、パンにバターをぬる方法くらいではないか。
突然せり上がってきた反感が自分の言っていることと矛盾しているのはエドモンドもよく分かっていたが、彼女がこんなに簡単に納得してしまうのは、受け入れがたい気がして頭を振った。
エドモンドは思わず、確認するようにオリヴィアの瞳をまっすぐに覗き込む。
まるで春の草原に浮かぶ空のような澄んだ水色の瞳が、同じようにまっすぐエドモンドを見据えていた。彼女は真剣だった。彼女は、確かで頑固な決心でもって、エドモンドの言葉にうなづいているのだ。
──私たちは別れなければならないという、エドモンドの言葉に。
そのあまりの驚きに、エドモンドは一瞬、我を忘れるほどの衝撃を覚えた……。
ずっと逃げていた。
ずっと、『バレット家の呪い』によって彼女を失うのが恐ろしくて、逃げ続けていた。
これでいい……これが最善の策なのだと自分に言い聞かせて。
しかし、心の底では、それでも自分の後を追ってくるオリヴィアに安心していたのでは……? 本当に別れを納得していなかったのは、自分の方で……。
その証拠に、オリヴィアの一言にひどく狼狽している自分がいる。
ひどく──憤慨している自分が。


