怒ったガブリエラが早足で二人から離れていったのと、妹の後を追ってヒューバートが隣からいなくなったのに、オリヴィアはほとんど気を払うことはなかった。
そして、周りに邪魔者がいなくなったとたん、オリヴィアを見下ろすエドモンドの表情は複雑なものになった。
「あなたのその眼差しのおかげで──」
眉をゆがめたエドモンドは、彼自身に言い聞かせるような口調で言う。
「私はまともに物を考えることができなくなっている。今だけじゃない。あなたと結婚してからもうずっと」
うまい返事が見つからず、オリヴィアはじっと彼を見上げ続けていた。
「くそっ、眼差しだけじゃない。髪も、肌も、唇も、声も、すべてだ。あなたのすべてが私を狂わせる。するべきでない事をしたり、今も言うべきでない事をベラベラと……もう、」
オリヴィアから両手を離したエドモンドは、そのまま混乱したように髪をかきあげた。
きちんと整えられていた前髪の房がいくつか額に落ちてきて、彼の男性的な魅力をさらに輝かせている。オリヴィアはたまらなくなって、つい、手を伸ばしてその髪に触れようとした。
止められるのを覚悟していたのに、エドモンドは眉をひそめたままそれを受け入れた。
苦しんでいるのか、喜んでいるのか、よくわからない顔をしたまま。
「ノースウッド伯爵……私たちは今、その……」
慎重に言葉を選びながら、オリヴィアはまるで言い訳するように言った。
「すこし……親しくなったのですよね?」
「マダム!」
エドモンドが苛立った声を上げたので、オリヴィアは肩をすくめて小さくなった。手を離し、もじもじとドレスの胸元についた刺繍を指先でいじり始めてみたりしたが、あまり落ち着きは得られない。
──私たちは口付けをした、と、オリヴィアは確認するように胸の内で繰り返した。
その驚くべき事実と、あの甘い感触の名残だけが、混乱したオリヴィアの心の中に強く残っている。突然のことだったけれど、二人の間に熱いなにかが流れていたのを確かに覚えている。
二人は間違いなくお互いを求めていたし、あの刹那、周りの世界のすべてがどうでもよくなっていった。
そしてそれは、エドモンドも同じだったのだと……思いたかった。
きっと、きっと。


