エドモンドの両手は、オリヴィアの腰周りからゆっくりと上がって、彼女の両頬をはさむように包んでいった……。
くたりと力が抜けたオリヴィアの身体が、やわらかい曲線を描いてエドモンドの上半身に寄りかかる。すると、エドモンドの唇はさらに貪欲さを増して、オリヴィアの唇をついばみ続けた。
この、情熱的でロマンチックな伯爵夫婦の口付けは、舞踏室にほとばしる熱気をさらに熱くしたようで、すぐに観衆のざわざわという喧騒を呼び起こした。
なんてスキャンダラスな……まぁ、ふしだらなこと……そんな非難の声に混ざって、この余興を面白がった明るい声援や、若い婦人たちの黄色い声が聞こえ始める。
ふんだんに振舞われる良質の酒とカドリールの後で、まともな道徳心を保っているものはそれほど多くないらしかった。
しかも二人は、対外的には新婚の夫婦ということになっている。
曲が終わり、まだ踊り足りないと言わんばかりに舞踏室に残るものと、いそいそと休憩や飲食を求めてその場を離れるものとで周囲は混乱していたが、エドモンドとオリヴィアの周りだけは時が止まったようだった。
まるで、紅海を渡るモーゼの目前に海が開けたように。
誰もがエドモンドの決意に満ちた妻への愛情表現を、固唾を呑んで見守っている。
しかし──どこにでもエジプト王はいるものらしい。
「なっ、なっ、何をなさっているの!」
最初にヒステリックな声を上げたのは顔を蒼白にしたガブリエラだった。
青筋のたった白い手を両脇でわなわなと握り締めながら、夫婦の間に割り込もうとするが、エドモンドは石の壁のようにまったく動かず、動じない。
ガブリエラはこうして存在を無視されるのが我慢ならなく、空気のような扱いをされるくらいなら相手を引っかいてでも注意を惹かなければ気がすまない種類の女だ。
実際、ガブリエラの手は今にもオリヴィアの顔をひっぱたいてやりたくて、うずうずしていた。
「私のおと……屋敷で、破廉恥な真似は許されませんわよ!」
興奮したガブリエラの台詞に説得力は皆無だったが、声だけは大きかった。
エドモンドは静かに、放漫といってもいいほどのゆっくりした動きでオリヴィアの唇から離れると、ガブリエラを横目で見下ろした。
「失礼する」
と、言った彼の声はかすれていて、荒い息使いが混じっていた。
「しかし、私は夫として当然の権利を行使しただけだ……お許しいただけるだろう」


