「ノースウッド伯……」
しかし、オリヴィアが彼の名を呼びきるまえに、音楽は再び二人を離れ離れにした。
オリヴィアはすぐにまたヒューバートの手に戻り、エドモンドの手は振りほどかれる。しかし、離れぎわに彼の手が名残惜しそうにオリヴィアの指先を掴んだのに、気付かないはずはなかった。
どくん、と鼓動がはぜた。
弦楽器の軽やかな調べが続き、オリヴィアはあらためてパートナーのヒューバートを見なければと努めて顔を上げたが、心は隣で金髪の美女と踊っているエドモンドのことばかりが気になってしまう……。
こんな形でも、オリヴィアがエドモンドと踊ったのはこれが初めてだった。
たった一瞬だけ。
手を繋ぐことができたと思うと、次の瞬間にはもう離れ離れになって。
でも、しばらくするとまた、オリヴィアはエドモンドの元へ戻っていく──。そんなことが踊りの中で何度も繰り返されて、そのたびにオリヴィアの手を握るエドモンドの力は強くなっていった。
もうその情熱を無視することはできない。
くるくると回るカドリールの動きも相まって、オリヴィアは頭のてっぺんから足元までがくらりと揺れるような感覚に何度も襲われそうになりながら踊らなければならなかった。
──もし今夜が最後だというなら。
お願いだから、ああ、この曲が終わらないで。
このまま、倒れて、何もかも分からなくなってしまうまで、終わらないでいて。
音楽はまるでオリヴィアの願いを聞き入れたように延々と続き、二人は何度もすれ違い続けた。


