「カドリール!」
そのせいかオリヴィアは、掛け声がかかり音楽が始まると、皆がいっせいに踊りだす前に最初のステップを踏み出してしまった。
ヒューバートをふくめた周りの何人かが、そんなオリヴィアをちらりと振り返って、いぶかしげに目を細める。
それは誰にでも一度はある、タイミングの間違いのようにも見えた……踊りなれない小さな婦人の、ささいな間違い。
たった数秒のずれだったのだから。
しかしまったく同じその瞬間に、エドモンドも最初の一歩を踏み出していた。
それは堂々とした動きで、まるで、タイミングを間違っているのは彼とオリヴィア以外の人間たちの方ではないかと錯覚させるほどのものだった。
音楽はすぐにテンポを速め、踊りが始まる。
するともう周囲も、エドモンドとオリヴィアの最初の小さな間違いに気を払うことはない。
オリヴィアはあせり、決まりどおりに動こうと相手のヒューバートを見ようとつとめた。ヒューバートは探るような視線でオリヴィアを見つめ返し、踊り慣れた者だけができる軽快な足運びで上手にオリヴィアをリードする。
「誰にでもある間違いですよ」
ヒューバートはまるで慰めるような口調で、オリヴィアにささやいた。「あとでじっくりとステップを教えてあげましょう。もちろん、個人的に、ね」
オリヴィアは答えず、ただじっとヒューバートの冷たい青の瞳に見入った。
(いいえ、違うわ)
確信を持って、オリヴィアは心の中で呟く。
(間違いだったんじゃない……偶然でもない。ノースウッド伯爵と私は、同じ瞬間に動き出したの)
ひらり、ひらりと女性たちのドレスがきらびやかに舞い、音楽が軽やかに続き、紳士淑女はカドリールの動きに酔うように踊り始める。
いくつかの軽いステップのあと、オリヴィアはヒューバートの手を離れて、隣の組の男性と踊ることになった。
つまり、エドモンドだ。
オリヴィアが手を伸ばすと、エドモンドは素早くそれを取ってきゅっと握った。それは本当なら、軽く触れるだけの動きのはずだったから、オリヴィアは驚いてエドモンドの顔をのぞき込んだ。
──彼はもう、例の不機嫌な顔をしていなかった。
かわりに切ない緑の瞳が、静かに、でも深みをおびてオリヴィアを見下ろしている。


