すこし飲み物を求めてさまよっていただけなのに、気が付くと数人の陽気な美女に囲まれていたローナンは、いくつかの面白い場面を見逃してしまっていたらしかった。
彼が舞踏室に流れ着いたとき、それは、まさにこれからカドリールが始まろうというときだったらしく、真っ直ぐに並んだ男女の列が互いに向き合っているところだった。
男女共に期待に満ち溢れた顔をして横のパートナーと見つめ合い、踊りが始まるのを今か今かと待ち望んでいる。
ローナンが人ごみの頭越しに首を伸ばすと、カドリールの顔ぶれが見渡せた。
(えぇ?)
中にはエドモンドがいた。
オリヴィアもいた。
彼らはそれぞれ別のパートナーと組んでいるようだったが、カドリールは途中で相手が何度か変わるから、最初の相手以外とも多く踊ることになる。
兄は、なにか変な酔い方でもしたのではないかと思えるほど恐ろしい形相で、オリヴィアのすぐ前に並んでいた。
彼の視線の先はまるで当然のように義姉で、こちらは道に迷った小鹿のような瞳をしながら、ダンスの相手を見つめるべきか怒れる夫を見つめるべきかで困っているようすだ。
──我が兄ながら、あんな顔をしてカドリールを踊ろうとする人間を見たのは初めてだと、ローナンは妙に関心してしまった。
いやはや、自分も不機嫌そうな顔をすると、あんな不気味な表情になるのだろうか?
これは気を付けなければ。
ローナンはつい片手でパシパシと頬を叩いて、兄につられて自分まで渋面にならないよう心に留めた。
「カドリール!」
と、どこかから進行役が声を上げたのを皮切りに、独特の軽快な音楽がテンポよく奏でられ始め、カドリールが始まる──。
ローナンは思わず息を呑みつつ、二人の行方を見守ることにした。
踊りはまるで儀式のようで、最初から最後まで動きは決まっている。
しかし、今回ばかりは何が起こるのか予想がつかないような気がして、ローナンは息を潜めた。


