Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 今更だが、エドモンドは大男だった。
 そのグリーンの瞳も相まって、まるで背の高い針葉樹のように見えた。その大きな針葉樹は深い溜息を吐くと、諦めるような口調で言った。

「分かった……君にはまず、食堂の場所を教えよう。飢え死にされては困るからな」


 * * *


 オリヴィアは多分、生まれて初めて、召使いの手伝いなしに着替えをした。

 背のうしろのホックだけは自分で留められなくて、続き部屋でオリヴィアを待っていたエドモンドに助けを頼んだが、それはいた仕方ないだろう。

 エドモンドはむっつりしながら無言でオリヴィアの背のホックを留めた。
 その眉間には深い皺がより、大きな手は心なしか震えていた。


「まぁ、まぁ、これがエド旦那のお嫁さんかい! こんなお人形みたいなのをノースウッドに連れて来ちまって、一体どうするつもりなんだい?」

 エドモンドに連れられて食堂と呼ばれる場所へ急ぐと、それは貫禄のある太った中年女がオリヴィアを迎えた。

 背が低くて、小柄なオリヴィアよりさらに一回り小さいが、幅だけは軽く二倍ありそうだ。
 くるくるに巻かれた金髪が頭の上でくしゃりと乱暴に結い上げられていて、酒を飲んだあとのように顔が赤みがかっている。頬には無数のそばかすが夜空の星のように散っていて、腰周りには、昔は白かったのであろう灰色のエプロンが巻かれていた。
 挨拶もそこそこに、彼女はオリヴィアの手を取った。

「それに、この手! 見たこともないくらい綺麗だね! 困ったもんだ、マダム、あんた肉包丁を持ったことがあるかい?」

 オリヴィアは否定に首を振った。肉包丁がどんなものなのか、持つどころか見たこともなかった。
 食事のときに使うナイフとは違うのだろうか。
 オリヴィアの反応を見た彼女は肩を落としながら盛大な溜息を吐く。

 ──いったい何度目だろう? オリヴィアに対して彼らが溜息を吐くのは。