ガブリエラはたしかな手ごたえを感じて、勝利の笑みを漏らしつつさらにエドモンドにすり寄った。
(私の誘惑と、良心との間でもがいていらっしゃるのね)
昔から、エドモンドは規範的で真面目な人物で、そこに野性的な男らしさが混じっている対比にはなんとも惹かれるものがあるのだ。
今だってほら……。
彼は手を震わせてまで、ガブリエラの魅力に抗おうとしている。
こういう男性が一度、箍を外したが最後、めくるめく情熱と愛情の世界が待っているに違いない。期待にせり上がってくる唾をごくりと飲んだガブリエラは、ゆっくりと妖艶な仕草で彼の肩に手を置いた。
「あせってはいけませんわ」
ガブリエラはエドモンドの耳元に囁きかけた。「あなたは今夜、きっとお望みのものを手に入れるでしょう。二階に静かな部屋を用意してありますの……」
「部屋?」
エドモンドがぶっきらぼうに聞き返した。
「まぁ、伯爵。あせらないでと言ったばかりではありませんか」
くすくすと低い笑い声を漏らしながら、ガブリエラは微笑んだ。
エドモンドは沈んだ瞳で妻のほうを見ている。
(ふふ、なんて素直な人なんでしょう)
ガブリエラはほくそ笑み、きたるべき夜に期待を馳せて胸をおどらせた。
舞踏室はシャンデリアの明かりと人々の熱気を受けてきらきらと輝き、音楽は華やかで、だれひとりとしてちょっとした火遊びの楽しみを批判したりはしなさそうだった。
大勢の客が小さな群れを作ってあたりを賑わせている。
楽団が典型的なワルツを演奏し終わると、踊っていた者もそうでない者も、楽しげに拍手をした。
音楽はしばらく止まったが、しばらくするとカドリールが始まった──人々はふらふらと吸い込まれるように舞踏室の中央に流れ出した。
「カドリールですわ! さぁ、踊りましょう、リードしてくださいますわね?」
当然、ガブリエラも興奮気味にエドモンドを踊りに誘った。
エドモンドの視線はまだ、監視するかのようにオリヴィアの一挙一動を追っている。
ちょうどその頃、戻ってきたばかりのヒューバートがオリヴィアの隣にいる青年になにやら小言を言ったようで、オリヴィアは再びヒューバートと二人きりになっていた。
二人がカドリールのために再び舞踏室の中心に進み出すのを見ると、エドモンドの身体はもう勝手に動いていた。
カドリールは男女が一組になって踊るものだったが、途中でどんどんパートナーが変わるのが特徴だ。
何を待っていたのだろう?
何が欲しかったのだろう?
──決まっている。本当はもう、心など最初から決まっていたのだ。


