「ノースウッド伯爵? まぁ、どうしたのかしら、手が震えていらしてよ」
突然、細くて白い女の手が腕に触れたのを感じて、エドモンドは一瞬だけ我に返って声のした方を振り返った。
クジャクかと見まごうほど豪勢な緑のドレスを着た女が、いつの間にか、エドモンドの腕にしなだれかかるようにして立っている。
エドモンドは不機嫌に眉を寄せながら女を見下ろした。
誰だっただろう──見たことはあるような気がするが、名前までは思い出せない女だった。
ただなぜか、エドモンドは彼女の神経質そうな細い鼻筋に妙な不快感を感じた。
見たことのある感じ……ああ、そうだ、ヒューバート!
奴の妹だ。
やはり名前は思い出せないが。
といっても、今のエドモンドは自分の名前もよく思い出せないような状態であったので、多分彼女に罪はないのだろう。
そんなエドモンドに対し、ヒューバートの妹はしつこく五本の指をからませてきた。
「興奮していらっしゃるのね。無理もないわ、ずっと領地で地味な妻としか過ごしていらっしゃらなかったんでしょう? でも、今夜は違うわ……」
女が意味不明なことを呟きだしたので、エドモンドは彼女を無視してオリヴィアの方へ視線を戻した。
それは、ほんの一瞬の出来事だったはずだ。
ほんの一瞬、目を離したに過ぎないのに、オリヴィアの横にはすでに見知らぬ男が立っていた。若くて線の細い、真面目そうな青年だった。
しかしその服装は洗練された上等のもので、立ち居振る舞いにも迷いがない。
青年はオリヴィアに微笑みかけ、オリヴィアもぎこちなく微笑み返している。
二人は笑いながら、なにか会話のようなものを始めた。


