やわらかな霧雨が降り始めた初夏の夜は、しめやかに、そして延々と続くようだった。
しかしここに、そんな情緒的なことに気が付いている人間は少ない。
ファレル家の屋敷は、軽薄で愉快なお祭り騒ぎに包まれていて、誰もが興奮気味に頬を高潮させながら踊り、歩き回っているばかりだ。
雨など遠い異国で起こっている出来事のように曖昧で、ときどきお喋りの話題に困った人間が外を指差して指摘するくらいだった。
──こんな夜に、空模様を気にかけるのは馬鹿げている。
かくいうエドモンドも、降り出した夜の雨にはまったく気付いていなかった。
彼の目の前にあるのは、ある、唯一つの現実だけだった。
オリヴィアという名のその現実は、窓際に立って彼の方をじっと見つめ返しながら立っている。
彼の目には、彼女の周りだけが輝いて見えた。
いくら離れて立っていても、エドモンドには彼女の香りが嗅げる気がした。
優雅なバラと、甘くて若い桃のような香りだ。
もっと彼女に近寄って豊かな髪に顔をうずめれば、今度は石鹸の爽やかな香りが立ち上がってくるのを知っている。
あの手を、とって。
その細い腰を引き寄せ。
お互いの熱を感じるほど、寄り添って……そして……。
エドモンドの中の妄想は、瞬時に燃え上がった。
腹部のあたりが急にカッカとしてきて、心臓はありえないほど速く脈打ち始め、喉がからからと渇いてくる。
それでなくとも、彼女が二人の男とワルツを踊るのを見届けたあとで、エドモンドの頭の中には嫉妬という名の悪魔が踊りはじめていた。
悪魔はますますエドモンドをイライラとさせ、なけなしの自制心をこれでもかと揺さぶる。
それを知ってか知らずか、舞踏室の端に立ったオリヴィアは、落ち着きなくもぞもぞと身体を動かしながらこちらを見ている。
動くな!
と、エドモンドは叫びたかった。
彼女の身体の動きの一つ一つがエドモンドの情欲を誘うように、他の男たちも誘われていくのが容易に想像できるからだ。
そうなったらどうすればいい?
くそ、猟銃を持ってくるんだった。一人残らず撃ち殺してやる。


