ワルツが軽快に奏でられ、沢山の紳士淑女が応接間から舞踏室に移っていく。
その人の波に混じって、ランデス卿はオリヴィアの手を引いた。二人は舞踏室の中央で向き合うと手に手を取ってステップを踏みだした。
ランデス卿は茶色の巻き毛と同色の瞳を持った社交的な人物で、踊りが上手かった。
「あなたはまるで雪の中に咲いた一輪の花だ。ノースウッド伯爵は幸運ですな……長く待つものは最後に得をすると東洋の諺にあるそうだが、あれは本当だったらしい」
ランデス卿はオリヴィアの耳元に呟いた。
エドモンドが晩婚に近かったのを指して言っているらしい。
オリヴィアはその東洋の賢者の言葉に感銘をうけて、小さく唸った。ランデス卿はそれをなにか別の意味に取ったようで、急にステップを早め、ぐっと腰に手を回してきた。
「ああ、ノースウッド伯爵が羨ましい。しかし私も、今夜は二階の客間に泊まっておりますよ」
一曲目のワルツは比較的早く終わった。
オリヴィアはほっとしてランデス卿に礼を言うと、次の曲が始まるまでに夫を見つけなければならないと考え、あちこちを見回した。
しかし、普段ならよく目立つ背の高いダーク・ブロンドの影は、どこにも見当たらない。
慌てたオリヴィアは不安になり、早足で応接間へ移動しようとした。
──ランデス卿は人当たりがよく踊りの上手い紳士であったが、彼の視線は不自然なほどぴったりとオリヴィアの胸の上に張り付いていて、二曲目はありえない。
すると、沢山の人並みにもまれて移動に苦労しているオリヴィアの手を、誰かが急に握った。
顔だけで後ろを振り返ると、そこには見たことのある気取った顔があった。
「サウスウッド伯爵!」
オリヴィアは声を上げたが、それは楽団の音楽にかき消された。
「レディ・ノースウッド、今夜はお目にかかれて嬉しい。そして今夜は特に美しいあなただ」
砂糖の甘ったるい香りがしてきそうなくらい、たっぷりのポマードで金髪を後ろに撫で付けたヒューバートがいて、オリヴィアを身体ごと振り向かせると手の甲に素早く口付けをした。
「もちろん、一曲踊っていただけますね?」
オリヴィアは断る口実を探そうとしたが、まったく思い当たらなかった。
おまけに、主催者に踊りを申し込まれるのは一種の名誉でもある。理由もなく断るわけにはいかず、オリヴィアは遠慮がちに答えた。
「え、ええ……一曲くらいなら……」
「では」


