結局、昨日は旅の疲れで部屋から出られずにぐったりしていただけだったので、あの恐ろしい執事と小姓ジョー以外、誰にも目を通していない。
最初の朝くらい、使用人たちの様子を見ておけということだろうか。オリヴィアは目をこする。
しかしエドモンドは頭を振った。
「確かに君には、使用人たちに挨拶してもらう必要がある」
そして、例の厳かな調子で続けた。
「しかし、君が思っているように挨拶して終わりではない。ノースウッドでは皆が働くんだ、マダム。例外はない。子供も、老人も」
エドモンドは『伯爵も、伯爵夫人も』と言外に匂わせた。
オリヴィアは夫の台詞の意味がよく分からず、もじもじと寝着の袖を指でいじりながら考えをめぐらせる。皆が働く……オリヴィアが……働く?
……何を、どうやって?
「私……」
「イエス、マダム」
「私も働くということでしょうか……?」
「そういうことになるだろう、マダム。物分りがよくて助かる」
何ということだ。オリヴィアは、急遽、自分が出来そうなことを考えてみた。
オリヴィアは今まで、朝起きると召使が着替えと洗顔用の水を用意してくれ、服に袖を通すまで手伝ってもらう生活を送ってきた。食事が用意されると呼ばれ、自分は席に付いて食べるだけで、料理も掃除も、ベッド・メイキングさえしたことがない。
リッチモンド邸には大きな庭があって、その世話をするのがオリヴィアの仕事だと自負してはいたが、オリヴィア本人が手を動かすことはあまりなく、住み込みの庭師がいて、オリヴィアはそこにもっと水をあげてくれだとか、あちらの木を刈って欲しいとか、そういったことを頼むだけだった。
「刺繍ができます。珍しい流行の花模様が縫えるんです」
「…………」
エドモンドが答えなかったので、オリヴィアは慌てて説明を加えた。
「とても珍しい花模様です。大陸から新しく伝わったそうで、誰も彼もが縫えるわけじゃないんです。社交界で流行っているそうで、姉に渡したらとても喜ばれました」
オリヴィアは一種の威厳をもって語った。が、エドモンドの反応は芳しくなかった。
珍しいものを見る目付きでオリヴィアを見下ろしている。
最初の朝くらい、使用人たちの様子を見ておけということだろうか。オリヴィアは目をこする。
しかしエドモンドは頭を振った。
「確かに君には、使用人たちに挨拶してもらう必要がある」
そして、例の厳かな調子で続けた。
「しかし、君が思っているように挨拶して終わりではない。ノースウッドでは皆が働くんだ、マダム。例外はない。子供も、老人も」
エドモンドは『伯爵も、伯爵夫人も』と言外に匂わせた。
オリヴィアは夫の台詞の意味がよく分からず、もじもじと寝着の袖を指でいじりながら考えをめぐらせる。皆が働く……オリヴィアが……働く?
……何を、どうやって?
「私……」
「イエス、マダム」
「私も働くということでしょうか……?」
「そういうことになるだろう、マダム。物分りがよくて助かる」
何ということだ。オリヴィアは、急遽、自分が出来そうなことを考えてみた。
オリヴィアは今まで、朝起きると召使が着替えと洗顔用の水を用意してくれ、服に袖を通すまで手伝ってもらう生活を送ってきた。食事が用意されると呼ばれ、自分は席に付いて食べるだけで、料理も掃除も、ベッド・メイキングさえしたことがない。
リッチモンド邸には大きな庭があって、その世話をするのがオリヴィアの仕事だと自負してはいたが、オリヴィア本人が手を動かすことはあまりなく、住み込みの庭師がいて、オリヴィアはそこにもっと水をあげてくれだとか、あちらの木を刈って欲しいとか、そういったことを頼むだけだった。
「刺繍ができます。珍しい流行の花模様が縫えるんです」
「…………」
エドモンドが答えなかったので、オリヴィアは慌てて説明を加えた。
「とても珍しい花模様です。大陸から新しく伝わったそうで、誰も彼もが縫えるわけじゃないんです。社交界で流行っているそうで、姉に渡したらとても喜ばれました」
オリヴィアは一種の威厳をもって語った。が、エドモンドの反応は芳しくなかった。
珍しいものを見る目付きでオリヴィアを見下ろしている。


