バレット家の馬車が屋敷の門に着いたとき、空はすでにどんよりと暗く雨雲に覆われ、日も落ちかけていたが、正面玄関は天候に逆らうように明るく賑わっていた。
着飾った紳士淑女が香水の匂いを振りまきながら集まり、早くも最新の噂話をささやき合っている。
どの窓からも光が漏れ、これからはじまる誘惑の夜を約束していた。
正面玄関で馬車を降りたオリヴィアたちは、人々の間を縫うように進みながら、扉の前で喧騒を取り仕切っている執事の前に進み出た。
執事はグレイの髪をした初老の男性で、招かれた客を屋敷内に案内し、招かれざる客を丁寧に、しかしきっぱりと追い返すことを今夜の仕事としていた。
エドモンドとその一行を見とめた彼は、慇懃に頭を下げて敬意を表した。
「これは、これは、ノースウッド伯爵。今晩は貴方さまを特別歓迎するようヒューバートさまから申し付かっております。どうぞこちらへ──」
と、まで言って、執事はバレット家の執事に目を留めた。
「……失礼ですが、こちらの方は」
いかにも胡散臭そうな顔を隠しきれず、執事は眉をひそめた。
バレット家の執事は抵抗するように目を細めた。
「こちらはうちの執事だ。一泊させていただく予定なので、世話役として連れてきている」
エドモンドが説明した。
隣でピートがフンと鼻を鳴らすのが聞こえて、オリヴィアは一人ハラハラしたが、執事はしぶしぶと納得したようだ。
四人はそのまま応接間へ案内された。
「どうぞ存分にお楽しみくださいませ。舞踏会はもうすぐ始まりますでしょう。それまではお飲み物でも召し上がりながら、皆さまとおくつろぎください」
執事は正しく執事であった。
オリヴィアは、バレット家の某執事が、ファレル家の執事の背中を眺めながら「この馬鹿めが」と呟くのを聞いたが、深くは考えないことにした。
応接間は巨大なシャンデリアに照らし出され、白黒の制服に身を包んだ使用人たちがクリスタルの杯に入った魅惑的な飲み物を配り歩き、早めに到着した客たちですでに混雑している。
女性は皆、華やかなドレスを着こなし、礼服姿の紳士たちはあちこちに目を配らせながら大いに楽しんでいるようだった。
そんな中でも、バレット家の男たちはよく目立った。
まあ、ピートが目立つのは白い孔雀のような髪のせいだとしても、エドモンドとローナンの凛々しさは群を抜いている。
二人はまるで猫の群れの中にまぎれ込んだ虎のように見えた。
長身も、野性的な逞しさも、この応接間に集まった貴族たちには著しく欠けているものだ。
すぐに老若男女の視線が集まってきて、オリヴィアは誇りと恥ずかしさの合いまった妙な気分になってきた。
扇子を口元に当てた婦人たちがこちらを見てコソコソと相槌を打ち合っている。
男たちが、嫉妬と賞賛の混じった目でじろじろとこちらを見ている。
不安そうな顔をするオリヴィアを見下ろしたローナンは、彼女の手前に進むとそっと優しく耳打ちした。
「義姉さん、あなたは今夜の主役になるよ。どんな女の人たちも君の半分も魅力的じゃないからね」
「あなたのお世辞の上手さがあれば、それこそ、ここにいる半分以上の婦人を夢中にさせられるでしょうね、ローナン」
「心外だな、義姉さん、僕は正直なだけなのに」
ローナンは片目をつぶってウィンクをして見せた。
「真実は今に分かるよ。暗闇と、君の美しさに目のくらんだ男たちに気を付けること。いいね」


