Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 コンコンと部屋の扉を叩く音がして、オリヴィアは目をつぶったまま不満げに眉をひそめた。

 太陽の高さからいって、まだまだ早朝だ。目を覚ますような時間ではない。
 オリヴィアはノックを無視したが、扉を叩いた人物は諦めが悪かった──扉はいつまでも叩かれ続ける。

 オリヴィアは頭までシーツとキルトをかぶって、聞こえないふりを続けた。

 ノックはさらに強くなり、オリヴィアが無視できない騒音へと変わっていったので、さすがの彼女ものろのろとシーツから顔を出して、ゆっくりと立ち上がった。

「どなた?」
 寝惚けた声で応答すると、やっとノックが止み、低い声が答えた。

「マダム、私だ。開けなさい」
 エドモンドだった。

 オリヴィアの眠けまなこがパッと見開く。寝着が乱れていないか急いで確認すると、扉を開けに向かった。一瞬扉の前で立ち止まり、深呼吸をして、扉を開く。

 そこにはエドモンドが立っていた。
 土色のズボンに、胸元が開いた白い飾り気のないシャツ、黒い太目のブレイシーズという簡素な格好だ。この寒いのに、上着さえ着ていない。

「おはようございます、伯爵」
「早くはないがね、マダム。おはよう。そろそろ起きていただきたいんだ」
「まあ……」オリヴィアは曖昧に答えた。「初めての朝ですものね、使用人たちへ挨拶をしなければいけないのかしら」