Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜








 自室の小さな化粧机の前に座りながら、オリヴィアは鏡に映る自分にじっと見入っていた。

 当然のことだが、水色の瞳がじっとこちらを見つめ返している。
 普段はほんの少し自然なウェーブを描いているだけの黒髪はこてを当てられて魅惑的な巻き毛になっており、細い三つ編みが王冠のように頭の後ろに回されていて、残りの毛はそのまま背中に流されている。

 ドレスに合うよう薄い下着(シェミーズ)を着て、その上にガウンを羽織ったオリヴィアの肌は、緊張でほんのり桃色に染まっていて、まるで誰かがその禁断の実をもぎ取ってくれるのを今か、今かと待ち望んでいるようだ。

 しかし水色の瞳は真剣そのものだった。

 ベッドの上には新しいドレスが広げてあって、布に縫い付けられた繊細なビーズ模様が窓からの光を受けて輝いている。



 バレット家の屋敷からファレル家の屋敷までは、馬車で数時間の旅になるらしい。

 エドモンド、オリヴィア、ローナン……そして、なんとピートが付いて来るという。四人は朝のうちに屋敷を出発して、舞踏会の夜はファレル家に泊まり、次の朝か昼ごろに帰る予定でいた。

(最後になるかもしれない夜に、初めて同じ部屋で休むことになるのね)
 と、気が付いて、オリヴィアはつい、微笑んだ。

 いままで寝室を別にしていたエドモンドとオリヴィアだが、それでも二人は夫婦なのだから、他人の屋敷に行けば間違いなく二人用の客室をあてがわれるはずだ。
 それも大勢の客が同屋敷に宿泊するとなれば、あまり広い部屋は期待できない。エドモンドはきっと嫌がるだろうが、オリヴィアは嬉しかった。
 どうせ最後になるなら、できるだけ近くに彼を感じたい。

 ──空には薄い灰色の雲が漂っていて、夕方には雨が降りそうだった。

 オリヴィアは静かに空に見入った。
 涙は零れてこない。少なくとも、今は、まだ。