老執事に鼻先までつめ寄られて、オリヴィアは狼狽した。
噛み付く相手を間違えてしまったのかもしれない。この猫は老猫でも、もっとも危険な野生の山猫だ。
「わしは、エドモンドの心を変えられるかもしれない唯一の人間だ。知りたくはないか? 呪いなど本当は存在しない理由を」
「え──」
「呪いは存在しない。まぁ、多分、な」
オリヴィアは両目を大きく開いて目の前の老人をまじまじと見た。皺に覆われた口元が得意げな曲線を描いているように見えて、オリヴィアは好奇心と恐怖心の両方を誘われた。
「呪いは存在しない……?」
老人の言葉を繰り返したオリヴィアは、信じられないというように小さく首を振った。「でも、だったら、どうしてそれを隠していたりするんです? ノースウッド伯爵は信じているわ……それで苦しんでいるのよ」
「お前には関係ないわ。さあ、知りたいのか知りたくないのか?」
「もちろん知りたいに決まっています!」
「じゃあ、何かして見せろ」
「は?」
「何か、わしを楽しませて見せろと言ったのだ。お前、泣き顔は見られたものではないが、他はなかなか悪くない見栄えだ。特にこの辺りがいい」
と言ってピートは、両手で胸の前を掴む仕草をした。
オリヴィアは一瞬なにを言われたのか分からなくて、眉をひそめた。するとピートは胸の前に置いた両手をふにゃふにゃと揉むような仕草を繰り返した──オリヴィアは頭からつま先まで真っ赤になった。
「こ……っ、これはノースウッド伯爵のものです!」
両腕を回して胸元を隠すと、オリヴィアは叫んだ。
「あの阿呆はそう思っておらんようだ。なに、ものの数分くらいで許してやろう。減るもんじゃあるまいし……」
ピートがオリヴィアに向けて手を伸ばそうとした。
その目は好色そうに歪んでいる……。
次の瞬間、空気をつんざくようなオリヴィアの悲鳴と共に、乾いた平手打ちが老人の頬に炸裂した。


