「あなたは……ノースウッド伯爵のお父さまが幼かった頃に、領地から失踪されたのでしょう。いつ戻っていらしたのか知りませんけど、あなたが阿呆と呼ぶ私の夫は、どこへも逃げずにずっとノースウッドを守ってきました」
「今はまだな。しかし、そう遠くないうちにわしと同じか、そうでなければもっと性質が悪くなるぞ」
「いいえ!」
オリヴィアは憤然と声を上げた。「彼は逃げないわ。絶対に。私には分かります」
「奴はすでにお前さんから逃げようとしている。違うか?」
「それとこれとは話が違います。私たちは約束をしました……これは公正な結果なんです。私の努力が至らなかっただけなのよ」
「違う。もっともお前さんの小さい頭では分からなくて仕方ないだろうがな。よく考えてみたらどうだ」
オリヴィアはむっとして口を引き結んだ。
考えるも何も、エドモンドは心を決めたのだ。それについてじっくり考えたくはなかった。みじめな気持ちになるだけだ。
バレット家の呪いがある限り、彼は考えを変えないだろう。
オリヴィアはそんな彼の頑なな心を溶かしたいと願い、そのために努力したつもりだったが、結果は実らなかった。これ以上それについて考え、傷口に塩を塗るような真似をする必要はないではないか!
反抗するようなオリヴィアの視線を受けると、ピートはゆっくりと彼女に近づいてきた。
年のせいか足を引きずって歩くので、床をこする音が不吉に響いてくる。恐怖にオリヴィアのうなじの産毛が逆立った。
「わしがノースウッドに帰ってきたのは、エドモンドが爵位を継いでしばらくした頃だ……」
地の底から聞こえてくるような声に、オリヴィアは思わず一歩後ずさった。
「わしは長い間地獄をさまよっていた……そして、帰ってきてみれば、息子を失ったあとだった。エドはまだ若く立場が不安定で、わしはまだ領主の地位を取り返してもいいほどの若さだった。結果、わしは二度とバレットを名乗ることはしまいと誓った。地元の者は皆気付いたがな、中央に嘘を通せればそれでよかった」
「そ、それと……どんな関係が……」
「真実を知っているのはわしだけだ」
「何の真実です?」
「『バレット家の呪い』の真実を」


