まだ誰も手を付けていない朝食が、テーブルの上に空しく並んだままでいる。
オリヴィアは何かを話さなければならないと思って、落ち着きなくドレスの裾をいじった。失踪したまま行方不明になったか、亡くなったかしたと思っていたエドモンドとローナンの祖父が、目の前にいるのだ。
一見化石のように見える皺だらけの容貌で、杖もつかずに綽々しゃくしゃくと屋敷を徘徊し、あちこちで毒舌を振りかざしているバレット家の不思議な老執事……。
それがエドモンドの祖父だったなんて。
彼は一月のうちほとんどを屋敷から留守にしていて、オリヴィアと顔を合わせる回数は多くなかった。いても、朝寝坊の上に、昼間はサロンでふんぞりがえって使用人やオリヴィアに色々と文句を言うくらいで、特別なことは何もしていない。
オリヴィアはオリヴィアで忙しく、仕事を覚えるためにマギーに付きっきりのことが多かったから、この気難しい老人は極力避けてきたのだ。
「ご存知だと思いますが、私はこれでも伯爵夫人なのです、ピート」
オリヴィアの心は重かったが、できるだけの威厳をもって顔を上げて尋ねた。「あと五日だけですけど……でも今はまだ、ノースウッド伯爵の妻です。真実を知る権利があるわ。マギーの言ったことは本当なのですか?」
するとピートは微笑のようなものを見せた。
「死んだ魚がどうとかいうくだりを除けばな。わしはあの阿呆なお前の夫より役に立つだろう」
「彼を侮辱しないでください!」
「わしは正直なだけだ。ちなみにもう一度言うが、もし誰かがお前のちんけな泣き顔を綺麗だと言ったら、それは嘘だぞ」
「な……っ」
反発を感じながらも、オリヴィアは自分の頬に手を伸ばして涙の跡を荒っぽく拭いた。この老人にはちくりと刺されてばかりだ。それもなまじか嘘ばかりではないから、いつも反論できなくなる。
これがエドモンドやローナンと血の繋がった祖父らしいのだから、血筋とは怖いものだ。
いまやオリヴィアは破れかぶれな気持ちで一杯だった。
夫からは五日後の舞踏会のあとに実家へ帰れと言い渡され、悲しみに泣いていれば泣き顔が不細工だからやめろと執事から文句を言われる。
不条理にだんだんと腹が立ってきて、今ならこの老執事に無謀な反撃を加えられそうな気分だった。
窮鼠猫を噛むという。
じっさい、ネズミは中々賢い生き物なのだ。


