一番最初に、エドモンドとオリヴィアの結婚の話が出たときのことを、ローナンはよく覚えている。
てかてかに光る白い紙を、少し悪趣味なくらい大袈裟な赤蝋で封印した手紙がバレット家に届いたあの日──仰々しくも黒のお仕着せを着た使者が手紙と一緒に到着して、リッチモンド家の使いであると述べた。
エドモンドは胡散臭がりながらも、使者を屋敷に上げた。
『ジグモンドさまには、五万ポンドの持参金を娘さまに付けられる用意があります』
使者はそれを伝えるために遣されたらしかった。手紙には書けない内容だからだ。
『オリヴィアさまは、もうすぐ二十歳になられます。国一の美女として名高いシェリーさまに比べると地味な方ですが、そのぶん気立ての穏かな大人しいお嬢さまでして……』
奇しくもバレット家は、ノースウッド・ヴァレーをサウスウッド領から買い戻すための金策に奔走しているところだったから、この数字はとても無視できないものだった。
この肥沃な渓谷は、美しいだけでなく蓄農業にひじょうに適していて、今年も安全に冬を乗り切りためにはどうしても取り返したいものだった。エドモンドにとっては、少年の頃遊んでいた思い出の場所でもある。
『この結婚は便宜的なものになるだろう』
エドモンドは言った。『リッチモンド家は貴族との繋がりが欲しい。私は持参金が欲しい……それだけだ』
しかし、現実はエドモンドの言ったようにはならなかった。
嫁に来たオリヴィアはエドモンドに恋心を抱き、エドモンドはオリヴィアを深く愛した。
便宜的だったはずの結婚は本物になり、形を変えるはずだった。
──それも良いほうに。
そうならないのはすべて、あの、あるのかないのか分からないバレット家の呪いのせいなのだ。


