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朝の身支度を終えたローナンが下階に降りてくると、珍しいことに小柄な伯爵夫人がすでに食堂にいた。
すでに何度か見たことのある若草色のドレスに身を包み、豊かな黒髪に同色のリボンを通している。
ローナンの姿を見ると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「じつは昨夜、驚くくらいよく眠れたんです」
厨房からパンを持ってくる手伝いをしながら、オリヴィアは言った。「それで早くに目が覚めてしまったから、すこし裏庭の散歩をしてきたの。見て。この花の名前はなんていうのかしら?」
後ろ髪に飾っている白い小花を指して、オリヴィアは尋ねた。
初夏になるといっせいに芝生に広がる野花で、ローナンはその名前を知らなかった。
「名前なんてないんじゃないかな」
礼儀正しく微笑み返したローナンは、オリヴィアの手を取って軽く口付け、朝の挨拶をする。
「僕なら『オリヴィア』って名前にするね。小さくて儚げなのに、本当はすごく強くて、可愛らしい美しさがある。まさに君じゃないか」
二人が無邪気に笑っているところに、エドモンドは出くわした。
朝から目の下に陰気な影をつくっているエドモンドが食堂に現れると、オリヴィアは息を呑んだ。ローナンでさえ、なにかおかしいと気付いたようだった。
爽やかな雰囲気がぴたりと止み、全員がしばらく口をつぐんだ。
焼きたてのパンの芳しい香りが、場違いにあたりに満ちている。
「おはよう、兄さん」
最初に沈黙を破ったのはローナンだった。「……あまりいい朝ではないみたいだけど」
「そのとおりだ」
エドモンドは枯れた声で答えた。


