*
背の高い夫の影が、カーテンから漏れる光によって板張りの床に投げかけられている。
オリヴィアは居たたまれない気持ちを抱えたまま、その影を目で追っていた。手元にはエドモンドが選んだ桃色の生地があって、それだけがオリヴィアにわずかな勇気を与えてくれる。
いまのところエドモンドは険しい顔で彼自身の足元を凝視していて、オリヴィアと目を合わせることを極力避けているようだった。
しかし、今日の彼はいつもに増して気まぐれだったから、次に何をしだすか予想がつかない。
彼は、情熱的な恋人にもなれるし、傲慢な夫にもなれるようだった。
エドモンドが仕切りのカーテンの前に築いた椅子と足台の山に視線を移したオリヴィアは、生来の前向きさの助けを借りながら、いいことだけを考えてみようと試みた。
今日、エドモンドは街中でオリヴィアを妻だと公言して回ってくれた。
レースのドレスは気に入らないようだが、一緒に街を散策してくれたし、オリヴィアが好きだといった花の色を覚えていてくれた。
近く催される舞踏会の招待にも、夫婦でといって受けてくれたようだ……。
仕立て屋の女主人はオリヴィアの足元にひざまずいて、あれこれと忙しく採寸を行っている。
一見、エドモンドとオリヴィアのやりとりには無関心を装っているが、二人の間で繰り広げられる感情や言葉のやりとりを一つでも見逃すまいと興奮しているのは、明らかだった。
この女主人の好奇心に提供できるものがあったらいいのに、とオリヴィアは思うが、残念ながらエドモンドはオリヴィアよりも床のほうに興味があるようだし、むっつりと黙ったままだ。
しばらくしてから、ひざまずいていたマーガレットが立ち上がって、台の上のオリヴィアに向き直った。
「ドレスを脱いでいただけますか、マイ・レディ?」
と、満面の笑顔で言う。
ずっと床を凝視していたエドモンドが、目を見開いて顔を上げた。
彼は驚愕といっていいような顔をしていた。
「下着とペチコートは付けていらっしゃるでしょう? ノースウッド伯爵、どうかレディの髪を持ち上げていていただけませんか? すぐに終わりますわ」
エドモンドは、是とも否ともつかない謎の短いうなり声を上げた。
戸惑いながらも、オリヴィアはすぐ言われたとおりにした。
マーガレットは手馴れていて、さっそく胸囲の採寸に取り掛かる。オリヴィアの背後にゆっくりと回ったエドモンドは、なにも言わずに流れる黒髪を持ち上げた。
彼は後ろに立っているので、オリヴィアは直接その表情を伺うことはできなかった──が、その手がかすかに震えているのをオリヴィアは感じ取った。


