Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 三日間の旅の過程。
 エドモンド・バレットは、馬車の乗り降りなどで手を貸す以外、一切と言っていいほどオリヴィアに触れなかった。

 会話は、オリヴィアから話しかければ一応の返事を得られたが、エドモンドの方からすすんで話しかけてくることはなかった。本当になかった。

 確かに、オリヴィアは、姉シェリーのような絶世の美女ではない。
 男性達がこぞって触れたがったり、愛の言葉をささやきかけようとする相手でないことは知っている。しかし、だからといって、触れるのも話しかけるのも煙たがれるほどの醜女ではないと思っている。……多分。

 それに、
(誓いの、キスは……)
 怖いくらいに情熱的だった。

 むさぼるような熱い口付け。強く腰を抱かれ、激しく求められた。
 ……と、思う。

 それがあれ以来さっぱりなのだ。

 慣例にしたがって婚儀をすませたエドモンドとオリヴィアは、さっそく彼の領地であるノースウッドへ旅立った。
 そして辿り着いた。巨大な納屋のようなお屋敷と、こわい執事にも対面を済ませた。

 とりあえずオリヴィアは、エドモンドがオリヴィアに関心を示さないのは、旅のせいだと納得することにしている。
 しかるべく訪れる初夜も、きっと領地に着いてからになるのだろう、と。

(だって、まだ知らないことだらけなんだわ)
 エドモンドがどんな人なのか。
 ノースウッドがどんな土地なのか。
 バレット家の屋敷がどうなっているのか。

 でも、知らないことは学べばいい。幸い時間はたっぷりある。