*
「これ……チクチクします、ノースウッド伯爵。まるで藁を巻き付けているみたい」
「文句ならローナンに言いなさい。どうやらすべての元凶はあいつのようだからな。次に奴が何か入れ知恵をしようとしたら、その感覚を思い出すといい」
エドモンドに言われて、オリヴィアは、分かったような分からないような神妙な気持ちでうなずいた。
オリヴィアの首周りには布が巻かれている。
布こそ真紅のベルベットだが、その端は糸があちこちに飛び出していて、なかなか個性的な見栄えだ。それもそのはず、その即席のスカーフは、エドモンドが馬車の座席の張り布を引きちぎって作った苦肉の策のなれ果てだったからだ。
おかげで馬車の中は熊に襲われた後のようなあり様だった。
それでも、妻の胸元を他の男から隠すことにつながるなら、エドモンドに悔いはない。
「私から離れないようにするんだ」
「はい」
妻が素直にうなづいたので、エドモンドはついに覚悟を決めた。
馬車の扉を開くと、まず、気持ちのいい新鮮な風が吹きぬけてくる。エドモンドは慣れた仕草で馬車から降り立ち、あたりの見物人を見渡した。危険がないのを確認すると後ろを振り向き、オリヴィアのために手を差し出す。
オリヴィアはすぐにエドモンドの手を取って外に顔を出した。
こういう時の彼女の立ち居振る舞いは、都会育ちらしく洗練されていて、見物に来ていた街人たちに息を飲ませる……美しいレースに身を包んだオリヴィアが地面に降り立つと、見物人たちは感嘆の声を漏らした。
「おんや、まあ!」
と、どこかの果物売りが声を上げた。「もぎたての桃みたいに美味しそうな娘っこだね!」
それに反論する声は一つも聞こえなかった。
オリヴィアはまず周囲の見物人たちを見回して、それからエドモンドを見上げた。
彼もオリヴィアを見下ろしている。
「……紹介して、いただけますか?」
控えめだが明るい口調でオリヴィアがねだると、エドモンドは短い溜息と共に前を見すえた。
「これ……チクチクします、ノースウッド伯爵。まるで藁を巻き付けているみたい」
「文句ならローナンに言いなさい。どうやらすべての元凶はあいつのようだからな。次に奴が何か入れ知恵をしようとしたら、その感覚を思い出すといい」
エドモンドに言われて、オリヴィアは、分かったような分からないような神妙な気持ちでうなずいた。
オリヴィアの首周りには布が巻かれている。
布こそ真紅のベルベットだが、その端は糸があちこちに飛び出していて、なかなか個性的な見栄えだ。それもそのはず、その即席のスカーフは、エドモンドが馬車の座席の張り布を引きちぎって作った苦肉の策のなれ果てだったからだ。
おかげで馬車の中は熊に襲われた後のようなあり様だった。
それでも、妻の胸元を他の男から隠すことにつながるなら、エドモンドに悔いはない。
「私から離れないようにするんだ」
「はい」
妻が素直にうなづいたので、エドモンドはついに覚悟を決めた。
馬車の扉を開くと、まず、気持ちのいい新鮮な風が吹きぬけてくる。エドモンドは慣れた仕草で馬車から降り立ち、あたりの見物人を見渡した。危険がないのを確認すると後ろを振り向き、オリヴィアのために手を差し出す。
オリヴィアはすぐにエドモンドの手を取って外に顔を出した。
こういう時の彼女の立ち居振る舞いは、都会育ちらしく洗練されていて、見物に来ていた街人たちに息を飲ませる……美しいレースに身を包んだオリヴィアが地面に降り立つと、見物人たちは感嘆の声を漏らした。
「おんや、まあ!」
と、どこかの果物売りが声を上げた。「もぎたての桃みたいに美味しそうな娘っこだね!」
それに反論する声は一つも聞こえなかった。
オリヴィアはまず周囲の見物人たちを見回して、それからエドモンドを見上げた。
彼もオリヴィアを見下ろしている。
「……紹介して、いただけますか?」
控えめだが明るい口調でオリヴィアがねだると、エドモンドは短い溜息と共に前を見すえた。


