Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 晴れわたる青空、生い茂る緑の香り、肥沃な大地の感触──。
 馬たちは勢いよく砂利道を駆けぬけ、その手綱を握るローナンの機嫌をますます良くさせた。実際、彼はとても機嫌が良かった。

 あの兄を狼狽させるのに成功したのだ。
 それはローナンに甘い勝利を感じさせたし、傍観者として強く興味をそそられる出来事でもあった。エドモンドとオリヴィア。なんと面白い二人だろう、と。

 おまけにどうやら、ローナンは最高の席で彼らを鑑賞できるようなのだ。

 御者台から後ろを振り返り、背後にある馬車を盗み見るローナンの口元には、悪戯っぽい曲線がかかれている。──この小さな密室の中で何が起こっているだろう? オリヴィアはあの格好だし、エドモンドはこれ以上ありえないほど頭に血が上っている。
 いや、頭ではなくもう少し下の方かもしれないが。

 ローナンは落ち着いた性格だったし、滅多なことでは興奮しなかったが、今回ばかりは子供じみた興味を抑えきれなかった。

 バレット家の敷地から出て数キロ。
 二股に分かれた道に馬車が差しかかると、ローナンは『左』に馬を向けた。
 ウッドヴィルへの近道は『右』だ。

 ローナンの選んだ道は近道より二倍の時間がかかる。──それこそまさに、ローナンが望んでいることだった。