Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 御者がいるのかと思ったのに、御者台に乗ったのはローナンだった。

「窮屈な馬車の中より、こっちの方が好きなんだ。それに義姉さん、そんな格好のあなたと狭い箱の中で二人きりでいるのは、すごく難しいな」

 ──まったく、皆して人を疫病のように。
 オリヴィアはすっかりつむじを曲げて、むっと唇の先を尖らせながら、一人馬車に乗り込んだ。

 今日は街に出るのだ。
 ウッドヴィルというノースウッド最大の街を見て、そのあと有名な仕立て屋に連れて行ってくれるというのがローナンの計画だった。
 これが一体どうしてエドモンドの心を掴む計画の一環になるのか、オリヴィアにはよく分からなかったが。

 一昨日の夜ローナンに言われた通り、最も女らしい服を着て陽気に振舞ったものの、結局、効果のほどは不明だ。
 ローナンのことは好きだし、頭の回転の速い人だということもよく分かるし、何よりも彼はエドモンドと人生を共にしてきた弟だ。だから信頼はしている。
 でも今回の『計画』とやらだけは、いまいち解せなかった。


 しばらく狭い馬車の中で出発を待っていると、ローナンの掛け声が外から聞こえたのを合図に、馬車は少しずつ進みだした。
 が──まだ玄関から数メートルと離れていない場所で、再びぴたりと止まってしまった。

 そしてそのまま動かなくなった。

(なにか不具合があったのかしら……)
 そう思って、オリヴィアは少し不安になった。

 バレット家には馬車は一台しかないし、そのための馬の数も多くはない。自分とローナンの馬鹿な計画のおかげで馬車を駄目にしたら、エドモンドはきっともっと機嫌を悪くするだろう。
 案の定、しばらくすると外からエドモンドとローナンの声が聞こえてきた。

 閉ざされた馬車の中からでは、いくら耳を澄ましても言葉の内容までは分からなかったが、なにか言い争っているようなのは感じられた。
 オリヴィアは焦った。
 このまま中に閉じ篭って、臆病者らしく馬車の隅で小さくなっているべきか。

 それとも、勇敢に外へ飛び出し、義弟を弁護するべきだろうか。

(ゆ、勇気を出すのよ、オリヴィア……!)

 オリヴィアは臆病者ではない。今日のエドモンドは怖かったけれど、彼から逃げていては元も子もない。
 外から響くエドモンドの怒声が大きくなるのを聞いて、オリヴィアはついに馬車の扉に手を掛けて、外へ出ようとした。すると驚いたことに、オリヴィアが押すよりも先に、扉が勝手に大きく開いた。

「きゃあー!」