Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「オリヴィア――」
 忠告を与えるような低い声でエドモンドに名前を呼ばれた。

 オリヴィアはびくっとしたが、多分、それを隠すのに成功したと思う。隣でローナンが支えていてくれたからだ。──ここで怯んでいたら、せっかく演じていた『陽気な女』が台無しになってしまう。
 背筋を伸ばし、なんとか、この状況を楽しんでいるような笑顔を作ってエドモンドに向ける。

「街に出てはいけないなんて、仰らないでしょう? 旦那さま」

 オリヴィアの問いに、エドモンドは答えなかった。

「大丈夫さ、義姉上。兄上はノースウッドで最も心の広い男だからね。こんな美人の奥さんを手放してもいいと思っているんだ、街に出たくらいで怒ることはないよ。そうだろう?」

 代わりに答えたのはローナンだ。
 そして、エドモンドは弟の意図を理解した。
 彼は兄を試している──挑戦、といってもいいだろう。どこまでエドモンドが我慢できるのかを試して、その限界まで兄をチクチクと刺し続ける気なのだ。

 三人は早朝の食堂でしばしお互いを見つめあった。
 無言の、緊張に溢れた数分のあと……沈黙を破ったのはエドモンドだった。

「好きにすればいいさ」