Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜




 少ししてから、艶やかな黒髪を後ろに結ったオリヴィアが食堂に下りてくると、椅子に座った二人の男は同時に顔を上げて彼女を見つめた。

 ローナンは満足そうな笑顔で。
 エドモンドは見たこともないような顔をしていた。
 にっこりと控えめに微笑んだオリヴィアは、エドモンドの前まで進み出て軽く腰を下げる。

「おはようございます、ノースウッド伯爵。もう具合はいいのですか?」
「ああ」

 と、エドモンドの答えは短かったが、彼の視線はずいぶん長い間オリヴィアの全身に張り付いて離れなかった。その正面ではローナンが、いかにも楽しそうに微笑をたたえながら、義姉にたいする賞賛の眼差しを隠そうともしないでいる。

「朝の挨拶よりも先に、まず、君の美しさを称えさせていただいてもいいだろうか」
 わざとかしこまった喋り方をして立ち上がったローナンに、オリヴィアは声を漏らしながら笑った。

「まあ、お優しいのね」
「正直なだけです。さあ、僕の隣にお座りください」
「ありがとう」

 クスクス笑いながら騎士と姫のままごとをしている二人を、エドモンドは黙って見ていた。彼は水の入ったゴブレットを手に持っていたが、その指が癇癪でぶるぶると震え始めるのを止められなかった。

 確かにオリヴィアは美しかった──。

 今朝の彼女のドレスは、大胆に胸が開いた薄いレース作りで、ぴったりと身体に張り付いて魅惑的な線を強調している。動くたびに肢体の揺れがあらわになり、豊かに押し上げられた胸元にいたっては、今にもこぼれ落ちそうだった。

 間違いなく、今までオリヴィアが身に付けていた中で、最も色気のある衣装だ。
 ローナンがオリヴィアを椅子までエスコートする短い間、少なくとも三回、オリヴィアの胸が弟に触れそうになった。
 それはエドモンドの寛容範囲を超えた出来事だった。

 まったくもって、許すまじ出来事だった。