Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜




 失意にさいなまれながら、オリヴィアは静かに寝室を出て、後ろ手に扉を閉めた。
 木の扉がパタンと乾いた音を立てて閉じられる。
 今までのオリヴィアなら、ここで膝を折って、床に向かって泣き出していたところだろう。しかし、涙はオリヴィアの涙腺をのぼりはしなかった。

(『バレット家の呪い』──)

 呼び方はどうでもいい。
 とにかく、エドモンドは、また悲劇が繰り返されるのを恐れているのだ。

「兄上は君に、何かを教えたのかな」

 急に廊下の先から声がして、オリヴィアはハッと顔を上げて前を見た。
 ローナンが廊下の壁に背をもたれてこちらを見ているところだった。オリヴィアは驚きと安心とを同時に感じて、肩を落としながら答える。きっと情けない顔をしているだろうけれど……。

「『バレット家の呪い』について、教えていただきました」
「僕と兄上が異母兄弟なのも?」
「ええ……不思議なものですね。あなた達は双子だと言われても可笑しくないくらい似ているのに」
「従兄でもあるから。まぁ、あとは偶然とかね」
「そうかもしれませんね」
「それで、君はどう思った?」