Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「オリヴィア」

 エドモンドは自分がそう言うのを聞いた。
 心から想いが溢れて、勝手に口が動いているような感覚だった。

「さあ、私の告白を聞いただろう。あなたには私から離れる百万もの理由ができたわけだ……。私を好きになどなるべきでない理由が」
「そう……そうでしょうか」
「リッチモンド家に戻ることもできる。愛人を作ることも」

 二つ目の提案に、オリヴィアは驚いて両目を見開いた。

 『そういう』貴族が多いことはよく知っている。姉のシェリーはよく、まるで天気の話のようにあけっぴろに、既婚男性が彼女を誘う話をしていたし、社交界に行けばいくらでもその手の話題はあるものだ。
 でも、そんなことできるわけがない……。

 彼らは寂しい人たちなのだ。結婚に愛を見つけられなかった孤独な人たち。
 オリヴィアは違う。
 オリヴィアは、エドモンドが好きだ。彼を──愛している。少なくとも愛しはじめている。

「ノースウッド伯爵……」

 怖いとは思わなかった。
 オリヴィアはエドモンドとは違う視点で、バレット家の歴史を理解できたから。

 ──きっと彼女らにとって彼らは、それだけの価値があったのだ。

 自らの命を失うかもしれなくても。
 それでも愛するだけの価値がノースウッドの男たちにはあった。ちょうどオリヴィアが、エドモンドにたいして抱くのと同じだけの愛が。

 蝋燭の炎は燭台の上で静かに揺れ続けていた。
 二人を淡く照らし、過去と未来のあいだを行き来して、不確かに震える光とともに。