大粒の涙が、オリヴィアの瞳からまっすぐに零れた。
エドモンドはそれを見て、彼女の頬に手を差し伸べた。親指の甲で流れる涙の筋をふきとり、オリヴィアを優しく見つめたまま呟く。
「私は、彼女との約束を守っていると思うが、どうだろう」
穏かな声だった。
低く、落ち着いていて、信頼できる者の声。
オリヴィアは小さく頷いた。
「ええ……あなたはローナンの素晴らしい兄だわ。彼もそれを知っています。あなたを慕っているもの」
「ありがとう」
同じ穏かな声で答えたエドモンドは、そのまま膝元にあったオリヴィアの手を取り、その滑らかな肌の上を愛しそうに撫でた。
静かな夜だった──。ちょうど、今夜のように。
よく磨かれた象牙のような……滑らかなオリヴィアの肌の感触を手の中に感じながら、エドモンドはまぶたを伏せ、あの夜のことを思い出していた。
もう三十年も昔の話になる。
それでも、記憶は刻一刻と鮮明になるばかりで、エドモンドを許しはしない。いつも、いつも。
あの夜を境にエドモンドの父は変わった。
最初から厳しく頑固な男ではあったが、それでもいくぶんかの愛情を持っていた──あの夜までは。それが酒びたりになり、領地の管理を放棄し、十年も経たないうちに暴酒がたたって亡くなったのだ。
おかげでエドモンドは、まだ少年と呼んでもいいようなうら若き十六歳の冬に、爵位と領土を継承した。荒れ果てたノースウッドを。土地は周辺の領土に切り売りされ、家畜は痩せ細り、森は枯れ、目も当てられない状態だった領地。
そして、エドモンドは過去二十年間を、ノースウッドのために捧げてきたのだ。
そうすることで何かを──過去を、未来を──変えられるような気がして。
しかし、今、エドモンドの目の前にはオリヴィアがいる。
そして祖父や父が犯したのと同じ間違いを、犯そうとしている。
エドモンドはそれを見て、彼女の頬に手を差し伸べた。親指の甲で流れる涙の筋をふきとり、オリヴィアを優しく見つめたまま呟く。
「私は、彼女との約束を守っていると思うが、どうだろう」
穏かな声だった。
低く、落ち着いていて、信頼できる者の声。
オリヴィアは小さく頷いた。
「ええ……あなたはローナンの素晴らしい兄だわ。彼もそれを知っています。あなたを慕っているもの」
「ありがとう」
同じ穏かな声で答えたエドモンドは、そのまま膝元にあったオリヴィアの手を取り、その滑らかな肌の上を愛しそうに撫でた。
静かな夜だった──。ちょうど、今夜のように。
よく磨かれた象牙のような……滑らかなオリヴィアの肌の感触を手の中に感じながら、エドモンドはまぶたを伏せ、あの夜のことを思い出していた。
もう三十年も昔の話になる。
それでも、記憶は刻一刻と鮮明になるばかりで、エドモンドを許しはしない。いつも、いつも。
あの夜を境にエドモンドの父は変わった。
最初から厳しく頑固な男ではあったが、それでもいくぶんかの愛情を持っていた──あの夜までは。それが酒びたりになり、領地の管理を放棄し、十年も経たないうちに暴酒がたたって亡くなったのだ。
おかげでエドモンドは、まだ少年と呼んでもいいようなうら若き十六歳の冬に、爵位と領土を継承した。荒れ果てたノースウッドを。土地は周辺の領土に切り売りされ、家畜は痩せ細り、森は枯れ、目も当てられない状態だった領地。
そして、エドモンドは過去二十年間を、ノースウッドのために捧げてきたのだ。
そうすることで何かを──過去を、未来を──変えられるような気がして。
しかし、今、エドモンドの目の前にはオリヴィアがいる。
そして祖父や父が犯したのと同じ間違いを、犯そうとしている。


