Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 オリヴィアは無言で首を横に振ったが、エドモンドの皮肉な笑いは消えないどころかますます深まるばかりだ。

「父は呪いを信じようとしなかった。本当なら私の母が死んだ時点で諦めるべきだったのだ……しかし、彼は妻に先立たれた悲しみを追い払おうとするように、妻の妹と再婚した。呪いなどないと証明してみせるとまで言って」

 ここで、エドモンドは一息置いた。
 短い沈黙ののち、エドモンドは一層低い声で唸るように続けた。

「モニカは若く健康的だった……。姉が死んだあと、甥である私の面倒を見るためにここに住み込み、荒れかけていた屋敷の面倒を全て見ていた。マギーが前ノースウッド伯爵夫人と呼ぶのは彼女のことだ。明るく頭のいい女性で、私には母も同然だった。多分、ローナンの性格は、彼女譲りなのだろう」

「…………」

「彼女も呪いを信じていなかった。もしくは、信じていてもそうでないフリをしていたのかもしれない。私は彼女の妊娠を知ったとき、子供心にも不安で仕方なかった。しかし彼女は大丈夫だと言って聞かなかった。私と、新しく生まれる弟か妹と、三人で遊ぼうと約束して。そして、」

 『そして、』

 その続きを聞くのが怖くて、オリヴィアはほんの少し首を左右に振って、エドモンドの言葉をさえぎろうとした。
 エドモンドは逆にどんどん饒舌になった。

 過去の秘密を告白することで、悲しみが消えるとでも言いた気なほどに。でも、エドモンドはこれから、思い出の中の最も苦しい部分を吐き出そうとしている。それが分かったから、オリヴィアはエドモンドの為に、ここで話を終わりにして欲しいと思った。

 うるんだ瞳でエドモンドを見上げるオリヴィアに対し、エドモンドの瞳は怖いほど乾いている。

「ある、三月の夜だ。私は初めて弟に会った。そして同じ夜に第二の母親を失った。彼女は最期に私を枕元に呼んで、約束を守れなくてごめんなさいと謝ったあと、弟を頼むと言い残して、私の目の前で息を引き取った」