Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 オリヴィアはついに言葉を失った。
 沢山の感情の波がいっぺんに押し寄せてきて、そのまま流されてしまいそうになるのを押し留めるのがやっとで、何も答えられない。

 それでも、オリヴィアにとってもっとも衝撃的だったのは、所謂『バレット家の呪い』そのものについてよりも、エドモンドの傷付いた瞳だった。底のない悲しみの谷を覗き込んでいるような瞳。
 深い緑──孤独に凍える悲しみの色。

「正確には、私たちは異母兄弟であり、同時に従兄弟(いとこ)だ。ローナンの母、モニカは私の母の妹だった。彼女は私の母親代わりだった……しかし私が六歳のとき、ローナンを産んですぐに帰らぬ人となった」

 複雑な人間関係を頭の中でなんとか整理して、オリヴィアは小さく頷いた。
 現実はちっともオリヴィアを慰めなかったし、もちろん、エドモンドをも、だ。彼は短い、諦めきったような溜息を吐くと、軽く頭を振って説明を続けた。

「祖父は妻を失ったあとの悲しみで領地から失踪していた──。残された私の父は幼い頃から領主の荷を背負わされ、とんでもなく頑なな男に成長した」

 エドモンドは口の端を上げて皮肉な笑いを見せた。「私のように」