Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「で、でも……」
「でもも何もない、止めるんだ!」
「でも、私、噓はついていません。噓はよくないことです。違いますか?」
「ーーーー!!」

 声にならない声を上げたエドモンドは、ゴブレットを放り出し、片手で髪をかきむしった。
 ──この生き物はなんだ。
 エドモンドは思った。どうしてエドモンドの心を溶かそうとする。どうして、こんなに甘くて、夢のようで、愛しい存在が目の前にいて、自分を慕ってくる?

「マダム、今すぐ止めないと──」
「見返りを求めて言ったんじゃありません。それはもちろん……いつか、あなたの妻として認めて欲しいとは思いますけど、同じ台詞を返して欲しくて言ったわけじゃないんです」

 エドモンドはもう少しで本当に叫び出すところだった。
 そのとおりだ、と。

 まさしく、エドモンドも同じ台詞を返したくなるからこそ、止めて欲しいのだと。しかしオリヴィアはエドモンドの反応を嫌悪とでもとったのか、ますます早口になって続けた。

「私はあなたが好きです。あなたをとても素敵な方だと思っています。だからそう言っただけです。それに、あなたが私に何も与えていないなんて、嘘だわ……私を守ってくれました」

 その時、鈴の音のようなオリヴィアの声と共に、エドモンドの中で何かがぷつりと切れた。
 ──理性が降参をしたのだ。
 エドモンドは手を下ろし、あらためてオリヴィアを見つめた。大きな水色の瞳は真摯に輝いていて、まっすぐに彼を見つめ返している。

 『真実』は。
 彼女をエドモンドから遠ざけてしまうかもしれなかった。
 エドモンドを恐れて、この都会育ちで無垢で可愛らしい金持ちの末娘は、逃げてしまうかもしれなかった。それでも。

「オリヴィア」
 エドモンドは枯れた声で言った。

「分かった……今からあなたに言おう。どうして私が、あなたを受け入れることができないのか」