二人きりになると寝室は急にしんと静まり返り、燭台の火だけが頼りなく辺りを照らしていた。
オリヴィアはベッドサイドに置かれた椅子に座ったまま、相変わらずの心配顔でエドモンドの横顔をじっと見つめ続けている。
エドモンドの顔色はだいぶ良くなっていたが、額のあたりに痛々しい痣ができていた。
オリヴィアを庇ったせいで負った傷だ。
「何か……飲み物はいかがですか? ここに冷たい水があります」
オリヴィアは、できるかぎり落ち着いた声で尋ねてみた。
本当はもっと言いたいことがあった──しかし、エドモンドは石像のように固い表情で天井を見上げたままオリヴィアの方をちっとも振り返らなかったので、それ以上をたずねる勇気が持てなかったのだ。
エドモンドは「ああ」と短く答えた。
オリヴィアが水の汲まれたピッチャーに手を伸ばそうとすると、しかし、エドモンドはそれをさえぎるように「自分でできる」 と言って身体を起こそうとした。
オリヴィアは片手上げて、やんわりとエドモンドを止めた。
「だめです、ノースウッド伯爵。丸一日は安静にしていなければならないと、お医者さまが仰っていました」
──その時やっと、二人の目が合った。
エドモンドのダークブロンドの髪は、前の部分が汗で額に張り付いている。
ベッドに横になったままの格好でオリヴィアを見上げる彼の瞳は、疲労と、「何か」に対する渇望で溢れているように見えた。
「あの、お医者さまが……」
と、狼狽したオリヴィアは繰り返した。
「その医者は」
エドモンドはオリヴィアを強く見つめたまま、抑えられた平淡な口調で言った。「あなたのことも診たのだな? あなたに怪我はないのか?」
「え、ええ……特には、なにも」
「だったらいい。もし少しでも眩暈や吐き気を感じたら、すぐに言いなさい」
「はい」
すると、エドモンドはまた天井に視線を戻した。
──たった一瞬の出来事だったのに。
たった一度、視線がからみ合っただけなのに。
オリヴィアはベッドサイドに置かれた椅子に座ったまま、相変わらずの心配顔でエドモンドの横顔をじっと見つめ続けている。
エドモンドの顔色はだいぶ良くなっていたが、額のあたりに痛々しい痣ができていた。
オリヴィアを庇ったせいで負った傷だ。
「何か……飲み物はいかがですか? ここに冷たい水があります」
オリヴィアは、できるかぎり落ち着いた声で尋ねてみた。
本当はもっと言いたいことがあった──しかし、エドモンドは石像のように固い表情で天井を見上げたままオリヴィアの方をちっとも振り返らなかったので、それ以上をたずねる勇気が持てなかったのだ。
エドモンドは「ああ」と短く答えた。
オリヴィアが水の汲まれたピッチャーに手を伸ばそうとすると、しかし、エドモンドはそれをさえぎるように「自分でできる」 と言って身体を起こそうとした。
オリヴィアは片手上げて、やんわりとエドモンドを止めた。
「だめです、ノースウッド伯爵。丸一日は安静にしていなければならないと、お医者さまが仰っていました」
──その時やっと、二人の目が合った。
エドモンドのダークブロンドの髪は、前の部分が汗で額に張り付いている。
ベッドに横になったままの格好でオリヴィアを見上げる彼の瞳は、疲労と、「何か」に対する渇望で溢れているように見えた。
「あの、お医者さまが……」
と、狼狽したオリヴィアは繰り返した。
「その医者は」
エドモンドはオリヴィアを強く見つめたまま、抑えられた平淡な口調で言った。「あなたのことも診たのだな? あなたに怪我はないのか?」
「え、ええ……特には、なにも」
「だったらいい。もし少しでも眩暈や吐き気を感じたら、すぐに言いなさい」
「はい」
すると、エドモンドはまた天井に視線を戻した。
──たった一瞬の出来事だったのに。
たった一度、視線がからみ合っただけなのに。


