*
ゆっくりと意識が戻りはじめると同時に、聞き慣れたマギーの声がエドモンドの耳に飛び込んできた。もう夜中なのか、辺りは薄暗い。
「駄目だよ、マダム! こういう時は冷たい水に浸した布を当てるもんだよ。熱い湯じゃ痣あざがゆで上がっちまう!」
それに応える、オリヴィアの当惑した声。
「そ、そうなのですか? 温かい方が気持ちいいんじゃないかと思って……」
「まぁ、確かに、最近の旦那は少しお灸を据える必要がありそうだったけどねぇ……。今回ばかりはマダムを守ってくれたんだから、ちゃんとしてやらないとね」
水を絞る音がして、額のあたりが急にひんやりと湿りだした。なんとなく状況を理解して、エドモンドはゆっくりと両瞼を開いていく。
すると、何人かの知った顔がうっすらと視界に入ってきた。
まず、マギー。
その隣にオリヴィアと、彼女らの背後にローナン。
エドモンドが完全に目を開くと、三人はそろって一点を凝視した──。つまり、エドモンドの顔を。
「あ、生きてるんだね。やっと目を覚ましたよ」
と、ローナンが言った。
「当たり前だよ、縁起の悪いこと言うんじゃないよ! マダムがこれだけ心配してるっていうのに」
マギーが釘をさすように言う。
そして、二人のやりとりの横で、不安そうな顔をしたオリヴィアがじっとエドモンドを見つめていた。
水色の瞳は今にも零れ落ちそうに揺れていて、目覚めたばかりのエドモンドの一挙一動を真剣に観察している。
手には白い布がぎゅっと握られていた。
エドモンドはもう一度目を閉じ、努めて平静を保ちながら、ゆっくりと口を開いた。
「私は一体どのくらい……休んでいた?」
声を出してみると、喉が焼けつきそうなほど乾いているのが感じられた。腕を伸ばそうとすると関節がきりきりと鳴り、しばらく同じ格好で寝かさていたのだと分かる。
「動かないでください、ノースウッド伯爵」
慌てた声でオリヴィアが止めた。
「今朝倒れてから、今までずっと気を失っていらっしゃったんです。お医者さまが来ていた間もずっと目を覚まさなくて……今はもう夜中です」
「まだ宵の口だけどね。一日ゆっくり休んだわけだ。頭を打った可能性があるから、あまり動かない方がいいと医者は言っていたよ」
ローナンが妙に親しげな口調でオリヴィアの台詞を引き継いだのに、エドモンドは明らかな嫉妬を感じた。自分が間抜けにも気を失っていたうちに、看病を通じて二人がますます親密になったのが、手に取るように分かったからだ。
自分はどこまで道化なのだろう──。
ゆっくりと意識が戻りはじめると同時に、聞き慣れたマギーの声がエドモンドの耳に飛び込んできた。もう夜中なのか、辺りは薄暗い。
「駄目だよ、マダム! こういう時は冷たい水に浸した布を当てるもんだよ。熱い湯じゃ痣あざがゆで上がっちまう!」
それに応える、オリヴィアの当惑した声。
「そ、そうなのですか? 温かい方が気持ちいいんじゃないかと思って……」
「まぁ、確かに、最近の旦那は少しお灸を据える必要がありそうだったけどねぇ……。今回ばかりはマダムを守ってくれたんだから、ちゃんとしてやらないとね」
水を絞る音がして、額のあたりが急にひんやりと湿りだした。なんとなく状況を理解して、エドモンドはゆっくりと両瞼を開いていく。
すると、何人かの知った顔がうっすらと視界に入ってきた。
まず、マギー。
その隣にオリヴィアと、彼女らの背後にローナン。
エドモンドが完全に目を開くと、三人はそろって一点を凝視した──。つまり、エドモンドの顔を。
「あ、生きてるんだね。やっと目を覚ましたよ」
と、ローナンが言った。
「当たり前だよ、縁起の悪いこと言うんじゃないよ! マダムがこれだけ心配してるっていうのに」
マギーが釘をさすように言う。
そして、二人のやりとりの横で、不安そうな顔をしたオリヴィアがじっとエドモンドを見つめていた。
水色の瞳は今にも零れ落ちそうに揺れていて、目覚めたばかりのエドモンドの一挙一動を真剣に観察している。
手には白い布がぎゅっと握られていた。
エドモンドはもう一度目を閉じ、努めて平静を保ちながら、ゆっくりと口を開いた。
「私は一体どのくらい……休んでいた?」
声を出してみると、喉が焼けつきそうなほど乾いているのが感じられた。腕を伸ばそうとすると関節がきりきりと鳴り、しばらく同じ格好で寝かさていたのだと分かる。
「動かないでください、ノースウッド伯爵」
慌てた声でオリヴィアが止めた。
「今朝倒れてから、今までずっと気を失っていらっしゃったんです。お医者さまが来ていた間もずっと目を覚まさなくて……今はもう夜中です」
「まだ宵の口だけどね。一日ゆっくり休んだわけだ。頭を打った可能性があるから、あまり動かない方がいいと医者は言っていたよ」
ローナンが妙に親しげな口調でオリヴィアの台詞を引き継いだのに、エドモンドは明らかな嫉妬を感じた。自分が間抜けにも気を失っていたうちに、看病を通じて二人がますます親密になったのが、手に取るように分かったからだ。
自分はどこまで道化なのだろう──。


