ウッドヴィルの街から帰ってきたローナンが裏口から屋敷へ入ると、突然、なにかが崩れ落ちるような衝撃音がして床を揺らした。
上階からだった。ローナンは驚いて、二階へ駆け上がった。兄の寝室と、それに続く義姉の個室に入る扉が開け放たれているのが見える。
嫌な予感がした。
この寂れた田舎の屋敷で、事件などそうそう起こらない。もし起こるとしたら、それは、オリヴィアに関すること以外には考えられなかった。
無邪気で、世間知らずで、美しくて、エドモンドに強く想われているのに、それに気づけない可哀想な伯爵夫人。
(何が起こったんだ?)
深く息を吸って、荒れる鼓動をなだめながら、ローナンは注意深い動きで寝室の扉へ近付いていった。
──中から声がした。兄の声だ。
兄が、声を荒げている。珍しいことだった。ローナンは素早く扉の前に躍り出たが、すぐ目に入ったその光景に、衝撃を受けて身体を固くした。
まず、斧が床に突き刺さって、ローナンの行く手を塞いでいた。
寝室の中を見れば、いくつもの椅子があちこちに無残に転がっていて、そのさなかに兄夫婦が抱き合ったまま床に転がっている──。
そのあげく、エドモンドは急にカーテンに対する謎の呪いを何度も叫んだと思うと、義姉をきつく抱きしめたまま動かなくなった。
(え、と)
ローナンはしばらく、黙ってそこに立っていた。
そのまま回れ右をして、沢山の楽しみごとが待っている街へ引き返したい気分にもなった。
片手を頭の後ろに回して髪を掻きながら、どうしたものか、と思案してみたが、新婚夫婦は床の上で抱き合ったまま動かないし、目の前に斧が突き刺さっているしで、どうしようもない。
「あのー、兄さん? オリヴィア? 誰か怪我をしてたりする?」
とりあえず、安否だけ確認したらすぐに立ち去ろうと決めたローナンは、控えめな感じで声をかけてみた。
エドモンドの肩がぴくりと動くのが見えたので、ローナンはほっとして踵を返そうとした──が。
「に、兄さん!」
「ノースウッド伯爵っ!」
オリヴィアとローナンの声が重なった。
床から起き上がりかけたエドモンドが、そのままオリヴィアの横に崩れるように倒れ、気を失ってしまったからだ。
上階からだった。ローナンは驚いて、二階へ駆け上がった。兄の寝室と、それに続く義姉の個室に入る扉が開け放たれているのが見える。
嫌な予感がした。
この寂れた田舎の屋敷で、事件などそうそう起こらない。もし起こるとしたら、それは、オリヴィアに関すること以外には考えられなかった。
無邪気で、世間知らずで、美しくて、エドモンドに強く想われているのに、それに気づけない可哀想な伯爵夫人。
(何が起こったんだ?)
深く息を吸って、荒れる鼓動をなだめながら、ローナンは注意深い動きで寝室の扉へ近付いていった。
──中から声がした。兄の声だ。
兄が、声を荒げている。珍しいことだった。ローナンは素早く扉の前に躍り出たが、すぐ目に入ったその光景に、衝撃を受けて身体を固くした。
まず、斧が床に突き刺さって、ローナンの行く手を塞いでいた。
寝室の中を見れば、いくつもの椅子があちこちに無残に転がっていて、そのさなかに兄夫婦が抱き合ったまま床に転がっている──。
そのあげく、エドモンドは急にカーテンに対する謎の呪いを何度も叫んだと思うと、義姉をきつく抱きしめたまま動かなくなった。
(え、と)
ローナンはしばらく、黙ってそこに立っていた。
そのまま回れ右をして、沢山の楽しみごとが待っている街へ引き返したい気分にもなった。
片手を頭の後ろに回して髪を掻きながら、どうしたものか、と思案してみたが、新婚夫婦は床の上で抱き合ったまま動かないし、目の前に斧が突き刺さっているしで、どうしようもない。
「あのー、兄さん? オリヴィア? 誰か怪我をしてたりする?」
とりあえず、安否だけ確認したらすぐに立ち去ろうと決めたローナンは、控えめな感じで声をかけてみた。
エドモンドの肩がぴくりと動くのが見えたので、ローナンはほっとして踵を返そうとした──が。
「に、兄さん!」
「ノースウッド伯爵っ!」
オリヴィアとローナンの声が重なった。
床から起き上がりかけたエドモンドが、そのままオリヴィアの横に崩れるように倒れ、気を失ってしまったからだ。


