いくらオリヴィアでも、斧がどれだけ重くて、危険な道具なのかぐらい知っている。恐怖にひゅっと息を呑んだオリヴィアは、一歩後ろに下がろうと身を引いた。
──後ろなど、どこにもなかったのに。
悲鳴を上げる時間さえなかった。足元の椅子が音を立てて崩れて、オリヴィアの身体をふくめたすべてが、勢いよく宙に投げ出される。
落ちる、と認識した瞬間。
それはすでに遅く、オリヴィアは目を閉じることさえできなかった。全てが無防備に、受身を整える余裕さえないまま、落ちていく。オリヴィア、ともう一度エドモンドが声を上げるのを、遠くに聞いた気がした。
衝撃はすぐにやってきた。
オリヴィアの上半身はどこかに強く当たり、胸が圧迫されるのを感じて、息を呑んだ。
ああ、なんて愚かなことをしたの。
ちょっと大きな仕事をして、エドモンドに褒めて欲しかっただけなのに。きっと骨がばらばらになって死んでしまうんだわ。しかも彼の目の前で……。
さらに何度か、椅子が落ちてくる短い衝撃を感じてオリヴィアはかたく目を閉じたが、不思議なことに痛みはなかった。
ただ、胸だけが苦しくて、息ができない。
少しして、しんと寝室が静まり返ったあと、オリヴィアは恐る恐る目を開いた。
最初は、何がなんだかさっぱり分からなかった。
何も見えないし、動けない。どこかすぐ近くから、スパイシーで男性的な香りがして鼻をくすぐり、オリヴィアの緊張を少しほぐしはした。
でも、心臓がバクバクとうるさく鳴っているうえに、手足が小刻みに震えている。
息苦しくて、オリヴィアは不器用にもがいた。
が、やはり、動けない。
(どうして……)
オリヴィアはなんとか浅い息を繰り返しながら、視界が開けるのを待った。
ふと、目の前にエドモンドの顔が見えたのは、それからすぐだ。
オリヴィアの上に覆いかぶさり、彼女を護るようにきつくきつく抱いた、エドモンドが──。
──後ろなど、どこにもなかったのに。
悲鳴を上げる時間さえなかった。足元の椅子が音を立てて崩れて、オリヴィアの身体をふくめたすべてが、勢いよく宙に投げ出される。
落ちる、と認識した瞬間。
それはすでに遅く、オリヴィアは目を閉じることさえできなかった。全てが無防備に、受身を整える余裕さえないまま、落ちていく。オリヴィア、ともう一度エドモンドが声を上げるのを、遠くに聞いた気がした。
衝撃はすぐにやってきた。
オリヴィアの上半身はどこかに強く当たり、胸が圧迫されるのを感じて、息を呑んだ。
ああ、なんて愚かなことをしたの。
ちょっと大きな仕事をして、エドモンドに褒めて欲しかっただけなのに。きっと骨がばらばらになって死んでしまうんだわ。しかも彼の目の前で……。
さらに何度か、椅子が落ちてくる短い衝撃を感じてオリヴィアはかたく目を閉じたが、不思議なことに痛みはなかった。
ただ、胸だけが苦しくて、息ができない。
少しして、しんと寝室が静まり返ったあと、オリヴィアは恐る恐る目を開いた。
最初は、何がなんだかさっぱり分からなかった。
何も見えないし、動けない。どこかすぐ近くから、スパイシーで男性的な香りがして鼻をくすぐり、オリヴィアの緊張を少しほぐしはした。
でも、心臓がバクバクとうるさく鳴っているうえに、手足が小刻みに震えている。
息苦しくて、オリヴィアは不器用にもがいた。
が、やはり、動けない。
(どうして……)
オリヴィアはなんとか浅い息を繰り返しながら、視界が開けるのを待った。
ふと、目の前にエドモンドの顔が見えたのは、それからすぐだ。
オリヴィアの上に覆いかぶさり、彼女を護るようにきつくきつく抱いた、エドモンドが──。


