Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 オリヴィアは爪先立ちになり、上を上をと目指していた。

「ん──っ」

 足元はぐらぐらと不安定に揺れている。
 それもそのはず、オリヴィアが建てた即席の台は、椅子の上に椅子、そのさらに上に小さな足置き台が乗せられた三段造りになっていて、誰が乗っていなくてもすぐに倒れそうな様相だった。

 そして今、そのさらに上に、特に肉体能力に優れている訳でもないオリヴィアが乗っかっているのだから、すべては時間の問題というものだ。

 違いといえば、後ろに倒れて床に落ちるか、前に倒れて二階のガラス窓を突き破り前庭の砂利道に落ちるか、くらいのものだろう。
 しかし、当のオリヴィアに、そんな危機感はなく。

 片手でカーテンの途中を掴んで危うい均衡を保ちながら、もう片方の手を上方に伸ばしていた。あとほんの少しで手が届きそうな微妙な距離が、オリヴィアを緊張させる。
 あと少し──。

 手が届いたとして、それからどうやってカーテンを棒から外すのかはまだ分からなかったが、とりあえず届けばどうにかなる。根拠のない楽天的思考に支えられたオリヴィアは、さらに手を伸ばした。

 つま先が震え、椅子の塔がぎしぎしとあらぬ音を立てはじめる……。
 その時だ。
 急に寝室の扉が開け放たれると、エドモンドが突進するように部屋に入ってきて、叫んだ。

「何をしている、オリヴィア!!」

 外の騒音に気が付かないほど集中していたオリヴィアは、エドモンドの足音も聞いていなかった。
 驚いてとっさにカーテンから手を離し、くるりと後ろを振り返る。

 そこには、髪をふり乱し、鬼のような形相で手に斧を握ったエドモンドがいた──。

 斧!