Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜




 エドモンドは屋敷の前で小作人を集めて、今日の仕事の指示を出しているところだった。

 中央近くの格調ある領地とちがって、田舎のノースウッドは、領地全体が大きな家族の集合体のようなものだ──エドモンドは伯爵で、若くしてこの地の領主だったが、土地の者から搾取するようなことはしなかった。
 村人にとってのエドモンドは尊敬すべき父親のようなもので、崇めるべき支配者とは違う。

 もちろん税はあったし、領地内の決定はエドモンドが下したが、それでも税率は比較的緩やかなほうだ。税収入はバレット家が着服することなく、全て領地内の整備に使われている。

 まあ、だからこそ、バレット家は裕福にならないのだが。

 それでもこの北果ての土地で、飢え死にする者を出したことがないのは、エドモンドの誇りだった。
 特に今年は……オリヴィアからの持参金で、肥沃なノースウッド・ヴァレーを隣の領地から買い戻すことが出来たから、例年以上に豊かな年になるはずだ。

 ノースウッド・ヴァレー。
 エドモンドの父の代に、隣の領地に盗みとられたも同然だった美しい渓谷だ。

 それもこれも、全てはバレット家の呪いのせいだった。